香港で、民主化デモが拡大している。香港行政長官の選挙制度を2017年から改定する決定を中国政府が下したことがデモの引き金となった。中国政府寄りの人物しか事実上立候補できなくなる内容の改定に、民主化を求める学生・市民が危機感を持った。

9月29日にデモ隊が金融街を占拠すると、警官隊がデモ隊を排除しようと催涙弾を発射し、「天安門事件の再来か?」と緊張が走った。非暴力のデモ隊に警察隊が催涙弾を使ったニュースが流れると、30日以降、デモに参加する市民が増え、国慶節で祭日の10月1日には10万人規模に達した模様だ。

警察隊はデモ隊を刺激しないように、30日以降は静観している。ただし、中国政府は、デモ隊が要求している選挙制度改定の取り下げには応じないと明言しており、抗議活動は長期化する見込みである。

香港は、1997年7月1日に主権がイギリスから中国に返還されて以来、「1国2制度」の枠組みで、高度な自治を認められてきた。完全な資本主義国である香港が、返還によって社会主義国の中国に組み込まれると、経済が荒廃するとの懸念が、返還前にはささやかれていた。ところが、1国2制度がうまく機能したおかげで、返還後も香港は順調に成長が続いてきた。

返還当初の中国にとって、香港は、学ぶべきところがたくさんある資本主義国の手本であった。手本としての香港経済を変質させないように、1国2制度によって香港の自治を認めたのである。

それでは、なぜ今、中国は香港への支配力を強める制度改定を強行しようとするのか? 上海が金融都市として成長したため、香港だけに頼り切らないでもやっていける自信を中国がつけたことも背景にある。ただ、香港市民の反発がここまで大きくなることは、中国政府にとって誤算だったかもしれない。

香港が中国にとって重要なハブ(物流拠点)であり金融拠点である事実は今でも変わらない。また、資本主義の手本としての価値も変わらない。香港には国際社会の目が光っているので、これ以上香港への弾圧を強めることはできない。かといって、中国国内でウイグル族・チベット族などの独立運動を強硬に抑えている手前、中国政府が香港の民主化デモに屈服したと見られる決着にはできない。中国政府は、メンツを保ちつつ事態を収拾する落としどころを探すことに苦慮することになりそうだ。落としどころが決まらなければ、香港の混乱は長期化することも考えられる。

執筆者プロフィール : 窪田 真之

楽天証券経済研究所 チーフ・ストラテジスト。日本証券アナリスト協会検定会員。米国CFA協会認定アナリスト。著書『超入門! 株式投資力トレーニング』(日本経済新聞出版社)など。1984年、慶應義塾大学経済学部卒業。日本株ファンドマネージャー歴25年。運用するファンドは、ベンチマークである東証株価指数を大幅に上回る運用実績を残し、敏腕ファンドマネージャーとして多くのメディア出演をこなしてきた。2014年2月から現職。長年のファンドマネージャーとしての実績を活かした企業分析やマーケット動向について、「3分でわかる! 今日の投資戦略」を毎営業日配信中。