ピッチの上では飢えた獣のようにボールを奪いにいく米本拓司が、アギーレジャパンにふさわしい理由とは

10月の国際親善試合でジャマイカ、ブラジル両代表と対戦するアギーレジャパン。9月の初陣で物足りなさを残したインサイドハーフには、打ってつけの男がいる。屈指のボールハンター・米本拓司(FC東京)は日の丸を背負って暴れる機会を静かに待っている。

J1で突出している米本のボール奪取能力

腰をかがめながら上半身を前傾させ、左右に開いた手をやや下げ気味にした体勢から、相手のボールホルダーとの間合いを一気に詰める。パスで逃げられれば急旋回して、次の獲物に狙いを定める。

獰猛(どうもう)で疲れを知らないプレースタイルを比喩するならば、それは「ボールハンター」となるだろうか。どことなく朴訥(ぼくとつ)な雰囲気を漂わせる米本は、ピッチの上に立った瞬間に豹変(ひょうへん)する。

「ボールを奪う力に関しては、米本はJリーグの中で突出している。今回のワールドカップに出場したセレッソ大阪の山口蛍君よりも上でしょう」。

FC東京の立石敬之強化部長が兵庫・伊丹高校から加入して6年目の23歳に最大級の評価を与えれば、8月20日の天皇杯3回戦でFC東京に敗れたJ2松本山雅の反町康治監督は、先制点につながる豪快なミドルシュートを放った米本へ脱帽の表情を浮かべている。

「ああいう怪物がいたら(ウチが勝つのは)簡単じゃない。ボールへのアプローチ、ボールを奪う力、プレスバックとすべてにおいて抜きんでていた。今日視察にきていた白髪のおじさんも選ぶだろう」。

白髪のおじさんとは、日本代表のハビエル・アギーレ新監督に他ならない。

アギーレジャパンの初陣で感じた物足りなさ

しかしながら、新生日本代表の船出となった9月の国際親善試合で米本は選出されなかった。アギーレ監督が掲げる「4-3-3」は中盤を逆三角形型として、最終ラインの前にアンカー、その前方に2人のインサイドハーフが配置される。

インサイドハーフは守備時の「ボランチ」から攻撃時には前線への「つなぎ役」へと様変わりし、状況によっては「フィニッシャー役」も務める。豊富な走力と運動量をベースに、高度な状況判断力も求められる極めて難解なポジションを、米本は今シーズンから「4-3-3」が導入されたFC東京で試合を重ねるごとに自分のものにしている。

先の代表戦では細貝萌(ヘルタ・ベルリン)を軸に、ウルグアイ戦で田中順也(スポルティング)、ベネズエラ戦では柴崎岳(鹿島アントラーズ)がインサイドハーフで先発した。

代表歴が長い細貝はボール奪取力に長(た)け、屈強な外国人とのフィジカルコンタクトにも慣れているが、展開力や攻撃力で物足りなさが残る。立石強化部長のもとには、サッカー関係者からこんな声がいくつも届いたという。

「細貝君のところに米本君が入っていたら、非常に面白かったのでは」。

新境地インサイドハーフで感じつつある手応え

米本自身はアギーレジャパンをどのように感じているのか。4対0で快勝した9月23日の徳島ヴォルティス戦後に直撃してみた。

「多少は(9月の試合を)見ましたけど、プレーしている選手も違うし、自分が入ったときのイメージがなかなかわかなくて。ただ、実際にプレーしている選手の特徴を出していくことがチームの強化につながると思うので、そういう考えは大事だと思う」。

「代表に選ばれてもいない自分にあれこれ言う資格はない」という信念と配慮が伝わってくる。ならば、未知のポジションだったインサイドハーフへの手応えはつかんでいるのだろうか。

「まずは走ること。その上で守備や攻撃で『スイッチ』を入れられる役割を果たせるかどうか。攻守両面でチームに貢献することが求められるし、自分の課題は特に攻撃面で何をプラスアルファできるか。今日はなかなかアイデアを出せなかったので」。

徳島戦の後半アディショナルタイムに決まった4点目は、相手のパスを鋭い出足でインターセプトした米本を起点としたショートカウンターから生まれた。それでも満足にはほど遠い。

岡田武史元代表監督もほれこんだ逸材

米本はすでに日本代表を経験している。2010年1月。当時の岡田武史監督が若手主体で臨んだイエメン代表戦で先発フル出場した。後にワールドカップで日本をベスト16に導いた名将も、19歳になったばかりのホープに注目していた。

しかし、好事魔多し。その後に左ひざの前十字じん帯を2度も断裂したことで、米本は遠回りを余儀なくされる。2度目の大けがの直後には「サッカーをやめようか」とさえ思った。

心が折れかけた米本を叱咤(しった)激励してくれた最愛の父・和幸さんが2011年12月に他界したことも悲しみに追い打ちをかけた。復活を果たした2012年3月の名古屋グランパス戦後。米本は号泣しながら、天国へ捲土(けんど)重来を誓っている。

「今日が最後じゃない。もっと、もっと上から僕のことを見てほしい」。

ロンドンオリンピックには間に合わなかったが、心技体のすべてをパワーアップさせた米本はいま、間違いなく4年後のワールドカップロシア大会へのスタートラインに立つ資格を有している。

「代表を意識するとけがをするので。まずはチームでしっかりやらないと」。

足元をしっかりと見つめる米本へ、立石強化部長はこんなエールを送る。

「代表に呼んでチャンスを与えてほしいですよね。高いレベルの中でいろいろなものを吸収する素養があるし、米本にとってもいいきっかけになるので」。

選手の頻繁な入れ替えを掲げているアギーレ監督は、まずはヨーロッパ組の細貝を試したとも考えられる。艱難辛苦(かんなんしんく)を乗り越えてきた米本に吉報は届くのか。10月10日のジャマイカ代表戦(新潟)、同14日のブラジル代表戦(シンガポール)に臨む日本代表メンバーは10月1日に発表される。

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筆者プロフィール: 藤江直人(ふじえ なおと)

日本代表やJリーグなどのサッカーをメインとして、各種スポーツを鋭意取材中のフリーランスのノンフィクションライター。1964年、東京都生まれ。早稲田大学第一文学部卒。スポーツ新聞記者時代は日本リーグ時代からカバーしたサッカーをはじめ、バルセロナ、アトランタの両夏季五輪、米ニューヨーク駐在員としてMLBを中心とするアメリカスポーツを幅広く取材。スポーツ雑誌編集などを経て2007年に独立し、現在に至る。Twitterのアカウントは「@GammoGooGoo」。