9月19日、ドルは一時109円台半ばまで上昇した。8月中旬まで101~102円台での推移が続いていたので、約1か月で7円近くもドル高円安になったことになる。ドルは円以外の通貨に対しても概ね上昇した。米国の景気が相対的に良好であり、9月のFOMC(連邦公開市場委員会)でQE(量的緩和)の終了から利上げに至るプロセスが明確に示されたことが大きかったのだろう。

景気や金融政策の面から、ドルに大きな死角はないようにみえる。それとも、「オクトーバー・サプライズ」が起きて、これまでのドル独歩高と真逆の流れが生じるのだろうか。いくつかのサプライズを考察してみた。

そもそも、「オクトーバー・サプライズ」とは、11月の米国の大統領選挙の直前に、選挙結果に影響を及ぼしそうなイベントが起こることを指す。その意味では、11月4日の中間選挙を前に、米国がイラクやシリアに対する軍事行動をエスカレートさせるというケースがあるかもしれない。そうでなくても、ウクライナやイスラエル・パレスチナなどを含めて地政学リスクが高まりそうな国・地域はある。

米国の景気に急ブレーキがかかるケースはどうか。8月の雇用統計は冴えない内容だった。1か月だけの統計だと、単なるブレの可能性が高そうだが、10月3日に発表される9月分を加えて2か月連続で悪い、あるいはその他の経済指標も軒並み悪いとなれば、やはり景気そのものが曲がってきたと判断できるかもしれない。

世界的な株安になって逆資産効果が働くようなら、昨年3月以降株価が史上最高値を更新し続けてきた米国がもっとも打撃を受けるかもしれない。多くのヘッジファンドの決算は11月末とされており、解約に対して「45日前ルール」が適用されるなら、10月中旬ころから解約が確定したファンドが一斉に株式の売りに出てくるケースも想定できなくはない。

欧州に目を転じると、11月1日からのECB(欧州中銀)によるユーロ圏主要銀行の監督一元化を前に、銀行のストレス・テストが行われている。その結果が10月中旬ころに発表されるらしい。1~2行が「不合格」となって資本増強を求められるとの見方もあるが、予想以上に多くの銀行が「不合格」となれば欧州市場で金融不安が高まり、それがグローバルに拡散するかもしれない。

金融市場でのリスク回避が強まって「安全資産」として円が買われるというシナリオと逆だが、日銀が大規模な追加緩和に踏み切れば、それもサプライズといえそうだ。10月は金融政策会合が2回予定されている。とくに、2回目は「経済・物価情勢の展望」、いわゆる「展望レポート」が発表される。そこで前回4月の見通し(7月の中間評価で追認)と比べて、2014-16年の見通しが下方修正されるようなら、合わせて追加緩和も打ち出されるのではないだろうか。

以上の他にも、金融市場に大きなショックが走ることがあるかもしれない。事前に想定できないからこそ「サプライズ」なのだから。

執筆者プロフィール : 西田 明弘(にしだ あきひろ)

マネースクウェア・ジャパン 市場調査室 チーフ・アナリスト。1984年、日興リサーチセンターに入社。米ブルッキングス研究所客員研究員などを経て、三菱UFJモルガン・スタンレー証券入社。チーフエコノミスト、シニア債券ストラテジストとして高い評価を得る。2012年9月、マネースクウェア・ジャパン(M2J)入社。市場調査室チーフ・アナリストに就任。現在、M2JのWEBサイトで「市場調査室レポート」、「市場調査室エクスプレス」、「今月の特集」など多数のレポートを配信する他、TV・雑誌など様々なメディアに出演し、活躍中。