運輸安全委員会は9月25日、2013年1月16日に発生し航空事故につながりかねない「重大インシデント」に認定された、ANAの787-8による高松空港への緊急着陸についての最終報告書を発表した。
要因はバッテリーの熱暴走
経緯としては、1月16日に同社の定期692便として、ANAの787-8が羽田空港に向けて山口宇部空港を08時11分に離陸。08時27分ごろ、四国上空高度約3万2,000ftを上昇中に、メインバッテリーの不具合を示す計器表示とともに操縦室内で異臭が発生したため、目的地を高松空港に変更して08時47分に高松空港へ着陸した。
その後、08時49分に同機は高松空港のT4誘導路上で非常脱出を開始。同機には機長ほか乗務員7人、乗客129人の計137人が搭乗しており、そのうち乗客4人が脱出中に軽傷を負った。なお、同機のメインバッテリーには損傷がみられたが、火災は発生しなかった。
報告書では、今回の重大インシデントは「同機が離陸上昇中メインバッテリーが熱暴走を起こしたため」としている。このメインバッテリーの熱暴走は、6番セルがセル内部の発熱現象でベントしたことにより熱伝播の起点となって発生したものと推定される。
発熱により膨張したセルケースとブレースバーが接触してアース線を介して接地短絡したことにより、バッテリーボックス内に大電流が流れてアーク放電が発生。その放電が熱伝播を助長して熱暴走に至り、バッテリーの損傷を拡大させたものと推定される。なお、6番セル内部の発熱現象は内部短絡によるものと考えられるが、その発生機序を最終的に特定することはできなかったという。
また、今回はひとつのセルの内部短絡による発熱現象が他のセルに伝播してバッテリーの損傷を拡大させることとなったが、熱伝播に至ったことについては、同型バッテリーの開発時の試験において航空機への装備状態が適切に模擬されず、内部短絡の影響が過小評価されたことが関与したものと考えられている。
改修後の同型機の運航に支障はない
今回の最終報告書に対してANAは、「当該便にご搭乗いただいたお客様、ならびに関係者の皆様にご迷惑をおかけしたことを、改めて深くお詫び申し上げます」とのお詫びを発表した。
なお、ANAでは2013年4月に製造メーカーが発行した当該機材のバッテリー改修手順書に基づき改修作業を実施し、国土交通省から航空機の運航の承認を得て、同年6月より当該機材の定期便運航を再開している。今回発表された最終報告書で推定されたバッテリー損傷に至る過程は、この一連の改修作業中で考慮された内容と同一であるため、改修後の同型機の安全な運航について支障はないという見解を示している。