新たに船出をしたVAIOにとって、その真価を問われるのは、やはり製品である。

そして、なんといっても、「2014年度中には製品化する」と明言する、VAIO株式会社初のオリジナル製品の行方が気になる。

現在、VAIOが発売しているのは、ソニー時代からの継続モデルである「VAIO Pro 11」、「VAIO Pro 13」および「VAIO Fit 15E」の3機種。生産プロセスは大きく変更したが、製品企画という観点からみれば決して新しいものではない。VAIO株式会社とすれば、まだ助走段階の製品だ。

VAIO Pro 11/13

VAIO Fit 15E

VAIOが、どんなPCを世の中に送り出すことができるのか。それは最初の一歩となる、次の製品にかかっているといっていい。では、VAIOはどんな新製品を投入しようとしているのか。

「非凡じゃ、弱い。きたかっ! といわれる製品を出したい」――。

VAIOの関取高行社長は、こう切り出す。開発を指揮する赤羽良介副社長も、「突出した製品を出したい」と異口同音に語る。

キーワードは、「一点突破」だ。

VAIO マーケティング・セールス/商品企画担当の花里隆志執行役員は、「VAIOらしさという点では、ここだけは誰にも負けない、あるいはとにかくこだわりにこだわり抜いた機能を備えているといった一点突破の製品を投入していきたい。量販店で価格競争に陥るような製品は出すつもりはない」と断言する。

VAIOらしい特徴を打ち出すことができる部分に集中し、それによって、特定の領域のユーザーに対して、響くものづくりを目指すという。

「この規模の会社だからこそ、思いっきりのいい選択と集中ができる」と関取社長は話す。そこにVAIOが出す新製品の魅力があるはずだ。

VAIOの関取社長(右)と赤羽副社長(左)

新たな製品の投入においては、いくつかのポイントがある。

ひとつは、新製品は、新会社になってから開発をスタートしたものが基本となるが、その一部においては、ソニー時代に開発していた次期モデルの要素を含む可能性があるという点だ。

赤羽副社長は、「ソニー時代にプランした商品企画の延長線上にあるものではなく、一度リセットした形で開発した商品を投入する」と前置きしながらも、「もともとソニー時代の次期製品として開発を始めていた技術がいくつかある。これが反映されるのかどうかという点では、ゼロではない。仕込んでいた部分でいいものは取り込んでいくことになる」とする。

実際、VAIO株式会社には、開発リーダーとなるキーマンがそのままソニーから移籍している。2014年夏モデルは残念ながら市場に投入されなかったが、その間も、新製品開発は継続的に進められてきたといっていいだろう。

そして、次期製品に直接つながるものではないが、VAIO Duo 13のサーフスライダー方式や、Fit Aシリーズの2in1の形状、内蔵カメラに搭載していたExmor RS for PCなどのソニー時代の数々の技術も、ソニーとの話し合いによっては利用することが可能だという。ソニー時代に、当時のVAIO&Mobile事業本部が、「Power of Sony」と呼んでいた数々の技術が盛り込まれることになるだろう。

Fit Aシリーズの2in1形状のイメージ

2つめは、ソニー時代に展開していた「VAIO Pro」、「VAIO Fit」、「VAIO Duo」、「VAIO Tap」といった4つのカテゴリ分けを見直すという点だ。関取社長は、ここでも「本質+α」の考え方に基づいて次のように語る。

「VAIOがやろうとしているのは面展開することではなく、尖った製品を出すということ。その点からも、面を埋めることを前提とした従来の4つのカテゴリの考え方はそぐわない」。

ここにもVAIOのモノづくりに向けた基本姿勢がみられる。

4つのカテゴリ分けは、2013年夏モデルから実施してきたもので、最先端技術を搭載した上位モデルのProおよびDuo、普及戦略を担うTapおよびFitに二分することができるほか、Windows 8の新たなユーザーインタフェースや機能などに対応したフォームファクタを持ったDuoおよびTap、従来からのクラムシェル型ノートPCなどのデザインを継承したProおよびFitという分類の仕方もできた。この2つの要素を組み合わせることで、それぞれのカテゴリの位置づけを明確にしていたというわけだ。

現行の「VAIO Pro 11/13」および「VAIO Fit 15E」は継続モデルであったことから、その名称を維持したが、今後の新製品では、異なる型番になる可能性が高い。もしかしたら、従来のようなアルファベット型番が再度復活する可能性もありそうだ。

ちなみに、新製品の投入時期については、2014年度中と語るに留まっている。一般的には2014年度というと、2015年3月末を想定するが、VAIO株式会社の決算期は5月。2015年5月までの間に発売されるというのが正しい理解だ。だが、少しでも早い時期に、VAIOらしい新製品を投入してほしいと思うユーザーは少なくないだろう。

VAIO Fitが初めて登場した、PC「VAIO」2013年秋冬モデル発表会での一幕。「VAIO Pro」「VAIO Fit」「VAIO Duo」「VAIO Tap」の4製品の展示は、各PCのカテゴリと位置づけを想起させる

気になるのは、安曇野の開発チームが開発した「尖ったPC」が、中国のODMで生産できるのかということだ。

実際、ソニー時代にも尖ったモノづくりを追求した結果、ODMの生産技術が追いつかず、量産に遅れが生じたり、歩留まりが悪化したことで、発売日を後ろ倒しにしたり、出荷数量が限定されたりということが起こっていた。

赤羽副社長は、「ODMで生産できないようなものは、安曇野で生産することになる。一部製品のなかには、安曇野モデルとして、安曇野で生産するものも含まれる」とする。

とはいえ、中国での生産についても、改善を進める姿勢は変わらない。「安曇野から技術者を派遣して、ODMのなかにしっかりと入り込み、生産技術を高める努力をしている」(赤羽副社長)。安曇野と中国のODMとの強い連携も、尖ったPCの実現においては避けては通れない取り組みだといえる。

関取社長によると、VAIOの新製品展開において、当面は幅広いラインアップが繰り広げられることはない。そして、現在のVAIO Pro 11/13と競合するような製品も出さないという。

「いくつかの製品を用意するが、それぞれに個性が異なる製品が登場する」と、関取社長は語る。それが、一点突破を極めた同社のフラッグシップともいえる製品群になるといえよう。

関取社長は、「『スマホでいいよ』、『タブレットでいいよ』と言われないようなPCを提案をしていく」と力強く語る。ユーザーの間からは、VAIO ZやVAIO type P、VAIO type UといったソニーのVAIOを象徴するような製品の復活を期待する声もあがっている。「きたかっ!」といわれる製品は、どんな形で登場するのか。いまから楽しみだ。

先週、米国時間2014年10月4日から8日まで米ロサンゼルスで開催されるAdobe Systemsのクリエイター向けイベント「Adobe MAX」で、VAIO初となるオリジナルPCの試作機が展示されることが判明した