――再び話は変わりますが、福井さんの切り絵がどのように作られているのかを教えてください。
鉛筆と筆ペンを使って、下書きをしっかりと描きます。それを切りたい紙の上に重ねて、二枚まとめて切っていきます。使用するのは普通に市販されているカッター。色を付けたい部分には、裏から色紙を当てています。
――特別な手法を用いているわけではないのですね。福井さんにとって、「切り絵」の面白さはどのようなところですか?
私はコンピューターが苦手で、自分の手を動かしてその成果が見えるもの、今、自分が何をやっているのかがわかる作業が好きなんです。紙質というか、紙の温かみのある感触も好きだし、それをカッターで切り抜いているのがすごく楽しいんですよ(笑)。
一言で言えば、「性に合ってる」というのが一番の理由です。切り絵には、線がつながっていなくてはいけないとか、ちょっとした制約があるわけですが、あまりにも自由すぎて、あれもこれもできるというよりは、その制約のなかで最大限、自分にできる表現を模索したり、どこまでできるかっていう楽しみ方ができるんです。
もちろん、紙を切っていればなんでも切り絵なんですけど、線のなかで表現するとか、ミニマムな中での表現の可能性を探る、みたいなところが自分に向いていると思います。現代アートでいろんな表現をやっていく人ってすごいなと思うんです。私はひとつのことをずっと継続してやっていって、その中で面白さを見つけていくタイプですね。
――福井さんのWebサイトのトップページで見られる映像では、繊細でありながらも大胆に切り進んでいく手元や刃先に引き込まれるように感じました。迷いなく作業されているように感じたのですが、切る段階の前、下絵の時はどこまで描き込むか、悩んだりしますか?
そうですね、悩みますね。すごく描き込んでしまって、これは切れないな、っていうくらいまで(笑)。
――切っているときは何か考えていますか?
下絵の時はすごく考えますが、切り抜くときは下絵のとおりに切るだけなので、「無」って感じです。カッターで切り進めていくと、どんどん切り抜いていった部分が見えてきて、自分でも、「あ、こうなってきたな」と実感できる。その作業がとても楽しいんです。
――切り絵に使う紙はいつも同じものですか?
だいたいラシャ紙の100キロを使っています。ザラザラ感と厚さがちょうどよく、薄すぎるとうまく切れないし、厚すぎると繊維が残ったり、手が疲れたりします。いろいろ試して、これに行き着いた感じです。
――作品として一番見ていた切り絵や、作家として意識される方はいますか?
やっぱり、「モチモチの木」を手がけた滝平二郎さんの作品ですね。それを見て魅力的だと感じていましたし、切り絵に再会してからも、ああいう簡略化されたものが「切り絵」だと思い込んでいました。でも、その切り方をやっていても、結局は誰かのマネになってしまう。切り絵は楽しいけれど、まったくオリジナリティがない、という壁にいつも突き当たっていました。なかなか、切り絵で自分の表現がつかめずにいたんです。民芸的な雰囲気のある典型的な「切り絵」ではなく、「現代」を生きている自分にしか表現できない「切り絵」を見つけなくてはと思っていました。
一方で、自分では怖くしたいわけじゃないんですけど、昔からどうしても劇画タッチの絵しか描けず(笑)、それを切り絵でうまく表現することができなくて。
その後、滝平さん以外にもいろんな切り絵作家がいることを知り、中には細かい線を切っている作家もいました。その時に、細かく切ってもいいんだ、何やってもいいんだ、と。自分の線を見つけ出したのは、そこからですね。
――現在の福井さんの作品に、影響を与えているのは? 型絵染作家の芹沢けい介さんが好きというお話は以前別のところでされていましたね。
芹沢さんを取り巻く「民芸運動」の中には、ずっとその精神は好きというか、影響は受けています。何も作為がなく、道具として作られたもののなかに、機能性や美しさ、普遍性がある。いいものであれば時代は関係ない、と思わされます。そういう目を持っていたいし、自分でもそういう作品を作っていきたいと思いますね。
――最後に、今後の予定や、新しい作品の構想などがありましたら教えてください。
今後も、人の顔は作りつづけていきたいなと思っていますが、最近は、特にワークショップで「文字」を切る機会が増えてきました。富士山の青い麓のビジュアルだけを用意しておき、みんなで富士山を称賛する言葉を切り絵で作って、雪のように配置して作り上げたり、参加者の名前の由来を、切り絵で絵文字のように表現したり。広告賞のビジュアルを切り絵で作らせていただいたことも。そういう方向性もありますよね。
また、近作としては、「アンジェリカ」というブラジリアンワックスの広告を制作しました。店頭用の大きな作品で、B1サイズくらいの色を付けた作品は初めてでした。また、地元の静岡県立美術館では毎年いろいろな企画をやっていますが、年内にワークショップがあります。ほかには、再びドイツで個展を開く予定で、前回はこれまでの作品を展示しましたが、次はその空間に合わせた新作を準備しようと思っています。