名古屋の喫茶店ならではの定番グルメのひとつ、小倉トースト。こんがり焼いたトーストにあんこをたっぷりはさんで(もしくはのせて)あり、バターの塩気とあんこの甘みが絶妙のハーモニーを生み出す。トーストのバリエーションのひとつであり、また和洋折衷のスイーツでもあり、名古屋市内および周辺エリアの喫茶店なら、かなりの確率でメニューに採用されている。

高級感漂う「喫茶 神戸館」で待ち構えているのが、噂の"鉄板小倉トースト"だ

オジさんのファンが多いのも特徴。パフェやケーキを頼むのはちょっと気恥ずかしい、という甘党の男性も、これならはばかられることなくほおばることができるのだ。そんな小倉トーストの進化版がこのほど登場! 「喫茶 神戸館」(名古屋市中区)にてその"鉄板小倉トースト"を体験してみた。

名古屋メシに鉄板は外せない

「喫茶店も小倉トーストも年配の人に好まれている。若い人にも食べてもらい、新しい名古屋メシにできれば」とマスターの尾藤雅士さん。

「喫茶 神戸館」は名古屋のオフィス街、伏見エリアの一角にある

実は、器として使われている鉄板も、名古屋の喫茶店では欠かせないアイテム。鉄板スパゲティなる一品もまさに"鉄板"の定番メニューだからだ。これはケチャップをベースに味付けされたスパゲティで、全国的にはナポリタンと呼ばれるが、名古屋ではなぜかこれを"イタリアン"と呼び、しかも鉄板に盛り付けるのが定石。「鉄板イタリアン」「鉄板イタスパ」などとも称される。

スパゲティに使うついでだからなのか、焼きそばやハンバーグ、豚のしょうが焼きなども鉄板に盛り付ける喫茶店が多く、名古屋の喫茶店ではやたらとジュージュー湯気を立てながらアツアツで出てくる料理が多いのだ。

名古屋メシと鉄板は深い関係にある(写真は「喫茶 神戸館」の「喫茶店のイタリアン」(750円)

シロップでインパクト大な演出

今年春から売り出した「鉄板小倉トースト」(650円、ドリンクセット850円)

それでも、小倉トーストを鉄板に乗せるという発想はこれまでなかった。「何もこんなものまでアツアツにせんでも……」という常識的な判断が、このとっぴなアイデアの誕生を阻んでいたのだと思うのだが、さてその必然性やいかに?

目の前に運ばれてきたそれは、鉄板スパなどでも使われる黒光りする鉄板皿が木のトレイに収められ、まさしく名古屋喫茶らしい鉄板グルメ! トーストはかなり分厚く、小倉あんが塗られ、さらにその上にバニラアイスがトッピングされている。

このボリューム感だけでインパクトがあるが、鉄板を使う醍醐味はまさにこの後だった。ポットに入ったコーヒーシロップを上から注ぐと、「ジュワヮ~~~ッ!」と湯気が勢いよく立ち上る。この演出によって、鉄板だからこそのアツアツ感を可視化できるのだ。

甘さをコーヒーの苦みで包み込む

1日10食限定の「鉄板フレッシュビーフバーガー」(850円、ドリンクセット1,000円)など、他にも鉄板グルメはいろいろ

もちろん狙ったのは視覚効果だけではない。コーヒーシロップは豆の自家焙煎(ばいせん)をウリとする同店オリジナルで、香ばしさとしっかりした苦みがある。あんとアイスの甘さをコーヒーの苦みで包み込み、ちょっと大人なビタースイーツなテイストにまとめてくれるのだ。

またトーストのアツアツとアイスクリームのひやひや、両者が口の中で交互に展開されるのも味わいの印象を複雑にして面白い。この「熱×冷」のコラボは、名古屋喫茶の代表格とも言うべきコメダ珈琲店の名物スイーツ、シロノワールとも相通じる。

名古屋の喫茶店でなければ絶対に生まれなかった新たな喫茶スイーツ、いっぺん食べてみや~!

※記事中の情報・価格は2014年9月取材時のもの。価格は税込

筆者プロフィール : 大竹敏之(おおたけとしゆき)

名古屋在住のフリーライター。雑誌、新聞、Webなど幅広い媒体で名古屋情報を発信。Webガイドサイト「オールアバウト」では名古屋ガイドを務める。名古屋メシ関連の著作を数多く出版。『名古屋の喫茶店』『名古屋の居酒屋』『名古屋メン』『続・名古屋の喫茶店』(リベラル社)は自腹リサーチをコンセプトにしてご当地ロングセラーに。10月上旬にはご当地グルメコミックエッセイ『まんぷく名古屋』(KADOKAWA、森下えみこ著)に案内人として登場。