病を未然に防ぐには、日ごろのセルフケアが大切だ。そしてそれは、体の病気だけではなく心(脳)の病気でも同じだろう。そこで、よく知られている心の病「うつ病」のひきがねになる「うつ」を予防するための生活習慣について、桐和会グループの精神科医の波多野良二先生に伺った。
健全な食生活と運動を取り入れ、日光を浴びる
文明が発達すればするほど、人間のライフスタイルは多種多様になっていく。パソコン一つあれば仕事はどこでもできるようになり、携帯電話は便利さと引き換えに、エンドレスな仕事を可能にしてしまった。
そのような環境は、やはり心身にとって好ましいものではない。「仕事が大変で、就寝時刻は大抵深夜。食事はほとんど外食かコンビニエンスストアで済ませてしまう」といった不健康な生活を送っている人ほど、うつになりやすい傾向がある。そしてその「うつ状態」が長期化すると「うつ病」へとつながる。
それでは、うつになりにくい心と身体をつくるための日頃の生活習慣とは何だろうか。
「それは『早寝早起き』『適度な運動』『バランスのとれた食生活習慣』、そして『日光を浴びること』ですね。日光を浴びることで、脳内の神経伝達物質・セロトニンが増え、それが夜はメラトニンという物質に変化して眠くなるので、特に不眠に悩んでいる人は、日中できるだけ外に出て、日光を浴びてください」。
実際、これまでのさまざまなデータから「日照時間がその地域に住む人々のうつ病罹患(りかん)率と関連があるのではないか」という説が注目されているという。スウェーデンなど日照時間の極めて短い北欧や、雨や曇りの日が多いイギリスが当てはまる。日本国内でも、日照時間の短い日本海側ではうつ病や自殺件数が多いという統計もある。
コレステロールとうつ病の関係性
「適度な運動」は、血液の循環を良くするので、脳内の血行が促進される。特にウオーキングやジョギング、アクアビクス、エアロビクスなどの有酸素運動を定期的に続けることで、血液中の悪玉(LDL)コレステロールが減少する。ここ数年の研究により、この悪玉コレステロール値の高さとうつ病との関連性が注目されている。
「コレステロールはセロトニンの働きに関与し、善玉(HDL)コレステロールが多い魚を食べるとうつ病になりにくい、と以前から言われていました。実際にうつ病の方の血液検査をすると、悪玉コレステロール値が高い人が多くいらっしゃいます。脳の血管が動脈硬化を起こして血流が悪くなっているのですね。また、『活性酸素がたくさん出るから』と考える研究者もいます。一般的に悪玉コレステロール値が高い人は太っているイメージがありますが、実際は見た目はやせていても、数値が高い人は大勢います。本人の体質もありますが、善玉コレステロールを増やし、悪玉コレステロールを減らす食生活もぜひ心がけてほしいです。一方、気分転換を図る意味で食事を楽しむことも必要です。食事内容を見直すだけでなく、みんなと食べて楽しい時間を分かち合うことも大切ですね」。
まずは自身の生活習慣をふりかえってみて、改善できるところから、少しずつ変えていくのがいいだろう。
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記事監修: 波多野良二(はたの りょうじ)
1965年、京都市生まれ。千葉大学医学部・同大学院卒業、医学博士。精神保健指定医、日本精神神経学会専門医、日本内科学会総合内科専門医。東京の城東地区に基盤を置く桐和会グループで、日夜多くの患者さんの診療にあたっている。