池之端眼科クリニック 藤田美穂先生 |
現在、国内には2200万人ものドライアイ患者がいると推定されている。ざっと国民6人に1人である。パソコンやスマホ…何かと「見つめる」生活をしている私たちにとっては耳慣れた「ドライアイ」だが、それだけに思い込みや誤解があるかも…。池之端眼科クリニック院長で、日本医科大学付属病院のドライアイ外来でも診療に当たっている藤田美穂先生に話を聞いた。
涙の「質」にも良し悪しがある
ドライアイとはどんな症状なのか。「『目が乾く』に決まってるだろう」と思う方もいるかもしれないが、そこをあえて藤田先生に尋ねてみた。ドライアイの患者さんはどんな症状を訴えて来るのか。
「『目が乾く』のほか『ごろごろするような感じ』が多いですね。『目がかすむ』ですとか『目が疲れる』と言う患者さんの検査を進めていくと、ドライアイが見つかるということもあります」(藤田先生)
なるほど。なんとなく目の調子が悪い、という場合、実はドライアイであることも少なくないのだ。では、そもそも「ドライアイ」とはどういう病気なのだろうか。 「涙の分泌量が減ってしまうか、あるいは、量は十分でも涙の質が低下することにより目の表面を潤す力が低下した状態をいいます」 涙にも質の良し悪しが?
「はい、そうです。安定性、というのですが、瞬きをせずに目を開けたままの状態で、涙を眼科用の顕微鏡を用いて診察します。涙の質が低下していると、目の表面を覆っている涙の層が5秒以下で乱れてしまいます。これだけでドライアイと診断できるものではないのですが、この〈BUT(涙液層破壊時間)〉もドライアイの検査のひとつです。でも、最近は全体的に短縮している人が多くなっている傾向があります」
私たち、みんな乾いているのだなあ…目も?心も?(涙)。
伏し目がちな作業がドライアイを防ぐ
では、ドライアイはどんな人に多いのか。何となく、オフィスワーカーに多いような気もするのだが…。
「いえ、一般的には、更年期以降の女性に多いといわれています。しかし最近ではオフィスで過度のVDT作業、パソコンやスマホなどの作業を長時間行う方にも起こりやすいですね。作業に集中しているとまばたきの回数が減って涙が乾きやすくなるので、意識してまばたきをすると良いですね。モニターの位置も大切です。モニターの位置が目よりも下になるほうがよいのです。目線が上がるとそれだけ目の開いている面積が広くなりますから」
あなたのオフィスでは、向かいの席の社員と目が合う気まずさ回避のためにモニターをついたて代わりに使っていないだろうか。それではモニターの位置が高くなりドライアイが起こりやすくなる。モニターの位置を下げ、向いの人と目が合わないよう伏し目がちに作業に没頭するのがいいようだ。
「さらに乾燥した環境、特にエアコンの風が当たるところでは悪化しやすいです。乾燥する冬場はつらい季節ですが、夏場もエアコンが効いた場所では乾燥します。加湿器などを利用して室内の湿度を保つことが大切ですね」
市販の目薬も「使いすぎ」は避けよう
さて、自分がドライアイかどうか気になる人のために、藤田先生に簡単なセルフチェックの方法を教えてもらった。
「10秒間まばたきせずに目を開けていられない人は、ドライアイの可能性があります。ドライアイを我慢していると、目の表面に傷を作ってしまうことがあります。気になる自覚症状がある人は早めに眼科でチェックしてもらうと良いですね」
手軽に使える点眼薬(目薬)もたくさん売られているが…。
「『人口涙液』といい、塩化ナトリウムや塩化カリウムのような電解質を主成分とした、涙の成分に近いものです。このタイプの目薬はコンタクトレンズをしたまま点眼できるものが主流です。でも「使いすぎ」に注意して下さい。あまり頻回に使うと、涙に含まれている、目を守る大切な成分まで洗い流してしまい、却って症状が悪化することがあります。また、防腐剤が含まれている目薬を使い続けると、防腐剤の作用で目の表面の傷がつきやすくなることがあります。人工涙液で症状が改善すれば良いのですが、点眼しても症状が改善しないようでしたら、眼科受診をお勧めします」
眼科で処方される目薬は市販薬とどう違うのか。
「『人口涙液』のほか、市販薬にはないタイプの目薬があります。傷ついた角膜を治す効果のある『ヒアルロン酸製剤』や、最近登場したムチンの産生や水分の分泌を促進する目薬など、ドライアイの治療法が広がってきています」
最後に藤田先生によると、服用中の薬の影響でドライアイが起こることもあるそうだ。その代表が「抗コリン剤」だという。
「抗コリン剤は、抗うつ剤や、一部の気管支拡張薬、抗不整脈薬に使われるお薬です。副作用として口が乾きやすく、涙の分泌量も減らすことがわかっています。眼科では抗コリン薬を続けながら点眼薬でドライアイの症状を緩和させることができますので、ぜひ相談してください」
いよいよ秋。ドライアイの症状が強くなる季節の到来だ。目が乾いてつらいときはもちろん、気になる症状があったら、素人判断せずまず眼科医にチェックしてもらい、適切なケアを指導してもらおう。