マンボウは、ちょっとした事故やストレスなどで簡単に死んでしまう魚だという噂話を見聞きした人は多いだろう。しかし、それは本当なのだろうか。マンボウの飼育・展示を行っている名古屋港水族館に確認してみた。

マンボウとはどんな魚なのか

マンボウは、フグ目マンボウ科に属し、最大で3m以上にも育つ大型の海水魚。側面から見ると卵形に近い体型や、上下に伸びた「背びれ」と「尻びれ」、後部の「舵びれ」など、一般的な魚のイメージとは異なるユーモラスな外見が特徴だ。世界中の温帯から熱帯の海に生息し、クラゲなどの柔らかなエサを捕食している。日本でも、全国各地の定置網漁などで漁獲されているが、鮮度がすぐに落ちてしまうため市場にはあまり出回らず、水揚げされた土地の郷土料理などとして食されている。

ユーモラスな外見が特徴のマンボウ。写真提供 : 名古屋港水族館

そしてマンボウは、簡単に死んでしまう魚として語られることが多い。「寄生虫を取るためにジャンプをするが、着水に失敗して死ぬことがある」というのが良く聞く話で、その他にも「まっすぐにしか泳げないため、岩などにぶつかって死ぬことがある」「目に泡が入ったストレスで死ぬことがある」「魚の骨が喉に刺さって死ぬことがある」など、数々の噂が流布されている。しかし、本当にそんな理由で死んでしまうのだろうか。

マンボウはそんなに簡単に死ぬ魚なのか

名古屋港水族館でマンボウの飼育を担当する小串さんに話を聞いてみたところ、ネットなど広まっているマンボウの死因は、ほとんどがデマとのこと。「寄生虫を取るためにジャンプをするが、着水に失敗して死ぬことがある」という話では、実際にジャンプすることはあるが、寄生虫を取るためなのかは確認されていないし、水族館で飼育されている個体がジャンプ後の着水で死んだ事例もない。もちろん、自然環境での確認もされておらず、もし外洋を航行する船でジャンプ後に死んだマンボウを見たのだとしても、他の要因で死の直前だった個体が苦しくて暴れていた可能性の方がずっと高い。

体を曲げることができない代わりに、舵びれを使って方向転換を行う。写真提供 : 名古屋港水族館

また、何も無い外洋に生息しているので「岩などにぶつかって死ぬ」可能性はほとんど無く、「目に泡や異物が入って死ぬ」という話では、他の魚でも見られる「ポップアイ」という病気の可能性があり、マンボウに限った話ではないという。クラゲなどを補食しているので「魚の骨が喉に刺さる」ことは基本的にない。その他に流布されている死因に関しても、確認された事例はないそうだ。

マンボウのフィーディングタイム。写真提供 : 名古屋港水族館

こうした誤解を生んだ要因としては、マンボウの生態がまだよくわかっていないことや、ストレスに弱い魚であることなどが挙げられる。例えば、既にマンボウが飼育されている水槽に新しいマンボウを入れると、お互いを意識してエサを食べなくなることがあるという。死ぬほど衰弱する訳ではないが、飼育が難しい魚であることは確かだ。また、体が硬いのですぐには方向転換できず、まれに水槽の壁面などにぶつかるが、怪我をする程度で死ぬことはない。水族館での飼育に限っては、他の魚の餌として与えられた魚の切り身を食べてしまい、骨が消化できずに体調を崩して死んでしまうことはある。

名古屋港水族館で本物のマンボウを観察してみよう

マンボウがすぐに死んでしまうというデマが流布していることは水族館側でも把握しており、マンボウを見学しているカップルがよく話題にしているそうだ。マンボウの解説を行う際にデマを否定しているが、それでもデマを信じている人が次々と訪れ、マンボウが水槽の壁面になどに近づくと「危ない、死んじゃう」といった声が上がるほどだという。

名古屋港水族館の黒潮水槽では、マイワシなどと一緒に泳ぐマンボウを見ることができる。写真提供 : 名古屋港水族館

実際のマンボウは学習能力が高く、名古屋港水族館ではダイバーが餌やりに水槽に入ると、近寄って来てダイバーの周りを泳ぎだすほど人に懐く魚だ。その様子は、マンボウの餌やりを来館者に公開する1日2回のフィーディングタイムで見ることができる。フィーディングタイムでは、係員がマンボウの解説も同時に行っているので、デマを信じていた人は、説明をしっかりと聞いて考えを改めて欲しい。

名古屋港水族館外観。写真提供 : 名古屋港水族館

また、名古屋港水族館でマンボウが飼育されている南館の黒潮水槽は、マイワシやマグロ、カツオなども一緒に飼育されており、特にマイワシの群れがエサを補食する「マイワシのトルネード」が人気イベントとなっている。同じ南館の「赤道の海」エリアは、2013年から改修工事が進められており、2014年3月末に一部がリニューアルオープンしたばかり。リニューアルした水槽では生きたサンゴが展示され、普通ならダイバーでなければ見ることができない生体サンゴを、カメラでズームして観察することができる。

黒潮水槽の人気イベント「マイワシのトルネード」。写真提供 : 名古屋港水族館

さらに12月末にグランドオープンを予定している「サンゴ礁の海」は、オーストラリアのグレートバリアリーフをモチーフに、色とりどりの魚たちが舞うように泳ぐ南国の海を表現するとのこと。これを機会に、マンボウのフィーディングタイムはもちろん、イベントや見所がたくさんの名古屋港水族館に足を運び、様々な魚に関する知識を深めてみよう。

リニューアルした「赤道の海」(左)、メインプールでのイルカパフォーマンス(右)。写真提供 : 名古屋港水族館