「安曇野」のブランディングを支える取り組みには、安曇野FINISH以外にも、2つの取り組みがあるといっていいだろう。
ひとつは「安曇野モデル」だ。安曇野モデルとは、安曇野での設計製造が一体となったモノづくりを指す。
これまでの開発体制では、商品企画から最初の試作の間までに参加するのは、回路設計やメカ設計の担当者だけだった。最初の試作が終わった段階で、製造技術や製造現場、品質保証といった部門の担当者が参加することになる。また、生産技術やカスタマーサービス部門の担当者は、最終試作の段階になってから参加するということがほとんどだった。
だが、安曇野モデルでは、最初の試作が行われる段階ですべての部門の担当者が参加する、「上流設計プロセス」と呼ぶ仕組みを採用する。これによって、製品の作り込み精度の向上や品質向上、量産体制に向けた体制構築が設計段階から可能になり、短期間での市場投入にもつながることになる。
従来は設計が行われても、製造が難しい場合には、設計変更が行われるといったこともあり、作業が上流へと差し戻れされる場合もあったが、最初の設計段階から、製造技術や製造現場の担当者が参加すれば、量産化を意識した製品開発が可能になるというわけだ。
安曇野では、すでに次期製品の試作が開始されていることを関取社長は明かす。
「すでに最初の試作を行ったが、従来は生産ラインに10人が並んで試作した。だが、今回の最初の試作は、3人のマイスターだけで作り上げている。一人が複数の工程を担当して作り上げるというのはこれまでにはなかったこと。マイスターたちが、自ら作ることでさまざまな問題点を発見できる。安曇野では、こうした新たな取り組みも始まっている」という。
もうひとつの安曇野での取り組みは、全量の修理を安曇野で行うことだ。さらに修理に関するユーザーからの問い合わせも、すべて安曇野でコントロールすることにになる。
従来の仕組みは、外注を含めた全国各地の修理拠点で修理をしていたが、これを安曇野に集約した。
赤羽副社長は、「最大の強みは、問題解析のスピードが格段にあがること。そして、ここで発生した課題を、設計や開発といった上流へと、すぐにフィードバックすることができること。安曇野にいる専門の修理担当者が、おもてなしの心を持って、迅速に対応することになる」とする。
物流の観点からすれば、北海道や九州のユーザーは、配送期間を含めて結果として修理完了までの時間がかかることになる可能性があるという。しかし、修理現場では、問題を早期に発見し、すぐに作業を開始することができるというメリットがあるとする。
VAIOでは、企業向けのある修理案件をもとに、修理作業のシミュレーションを実施したという。すると従来の体制では1週間程度かかるものが、物流を除けば、わずか1日で対応できるということがわかった。
修理体制が、実際にどの程度機能するのかがわからないため、現時点では、対外的な打ち出しでは従来の仕組みと同様の修理日数がかかるとするが、VAIOの経営幹部は、修理対応が迅速化することに自信を持っている。
「安曇野での修理、あるいは安曇野FINISHを実現することで、品質には徹底してこだわれる体制が構築できた」と赤羽副社長は胸を張る。
そして、「VAIOがここまで品質にこだわるのは、PCの本質といえる部分に深く関わっていくからだ」と指摘する。
「VAIOを生産性、創造性のための道具として使う人に、最大のアウトプットを実現してもらうには、その作業を妨げたり、中断させてはいけない。万が一、故障した場合にも迅速に対応し、生産性、創造性への影響を最小限にすることも大切。これはPCメーカーとしての基本であり、我々が目指す『本質』のひとつでもある」。
「安曇野」での取り組みは、「本質+α」をコンセプトに掲げるVAIOにとって、不可欠なものとなる。