『HERO』(フジテレビ系毎週月曜21:00~)の第8話では、暴力団に真っ向立ち向かう久利生(木村拓哉)のヒーローらしいシーンが目白押しだったが、第9話のテーマは第2シリーズで際立っている"城西支部のチームワーク"。
今回発生したのは「大学生4人が仲間の1人を集団暴行で死なせた」という事件。城西支部の検事4人が被疑者4人を1対1で取り調べる、という展開だった。しかし、大学生たちは取り調べにあいまいな返事を繰り返したり、口裏を合わせたりで致命傷を与えた人物が特定できない……。
久利生は「ごっつあんゴール」なのか
牛丸次席(角野卓造)の「城西支部、総力を挙げてよろしく頼むよ」、川尻部長の「それぞれからじっくり話を聞いて、直接手を下した人間をあぶり出していくんだ」、久利生(木村拓哉)の「チームプレー、いいっすね!」と、テーマを印象付けるようなテンポのいい会話が冒頭から飛び交った。これは「解決までの時間が少ない」1話完結ドラマならではの"印象コントロール"だ。
検事4人の部屋で同時進行の取り調べのため、次々とカメラが切り替わり、さらにチームプレーを強調。大学生たちが口裏を合わせた供述をすると、川尻が「向こうがチームで来るなら、こっちもだ」と、ここでも印象を上書きしたが、事件を解決したのはほぼ久利生の個人技によるゴールだった。
まず久利生以外のメンバーたちは、残暑で「暑い!」を連発して、お出かけ捜査を拒否。「やってないじゃんけんに負けてる感じ」で聞き込みを始めた久利生は、かき氷やブラジル料理を食べながら、6人目の存在をつかむなど、次々に捜査を進めていく。"チームワーク型のチーム"というより、"エース依存型のチーム"に近い。
最後も黒幕の椎名(丸山智己)を呼び出し、「緊急逮捕!」した久利生がメンバーに向かって「ナイスパス! すいません。ごっつあんゴール、ありがとうございました」と照れ笑いしていたが、それ以前から「事件の大筋をつかんでいた」と思われるセリフがあった。
被疑者の1人に「『言え』って言われて言うわけないよね。いや、でも、きっとそこにすんげえ大事なものがあるんだって。ねっ?」、詐欺で落ち込んだ麻木に「まあいい経験なんじゃないの。被害者の気持ちが分かって」と意味深なフレーズを連発。オンライン通話サイト『CHATLiVE』で事務官たちが供述を共有するなどのサポートはしていたものの、終わってみればエースストライカー・久利生の決定力が光っていた。
ちなみに、ゴールを決められた丸山智己は、刑事ドラマ全盛の連ドラ界を牽引する悪役顔。城西支部のメンバーから寄ってたかって追い込まれる姿は、ある意味貫録十分だった。
フットサルの背番号に込めた意味
エンディングで行われた城西支部メンバーによるフットサルは、言わばスタッフからの"視聴者ボーナス"的なプレゼント。本編でフットサルは全くのフェイクだったのだが、サッカー日本代表のユニフォームを着たメンバーたちが、さながら"久利生ジャパン"を結成したのだ。
城西支部の検事、事務員、警備員を合わせると、両チーム合わせて10人でプレーするフットサルにぴったりの人数になる。同じ人数でプレーするバスケットよりも、男女ミックス試合があって、大学生っぽい競技としてフットサルになったのだろうか(ただ、ユニフォームは、サッカー日本代表というミーハーぶりだったが)。
気になったのは、各メンバーの背番号。分かりやすいのは、役名にちなんだ久利生の9番、芸名にちなんだ遠藤(八嶋智人)の84番、実年齢を採用した末次(小日向文世)の60番、「2月3日生まれ」である馬場(吉田羊)の23番だが、その他はちょっと微妙。
あくまで予想にすぎないが、麻木は「(8月)22日生まれ」の22番、宇野(濱田岳)は「元中日ドラゴンズで"ヘディング伝説"のある宇野勝」の7番、田村(杉本哲太)は「バンド紅麗威甦(グリース)のシングル全5枚」の5番、井戸(正名僕蔵)は「歳の離れたラブラブ妻の年齢」の29番、小杉(勝矢)は「上京して17年」の17番、川尻部長は「チームの中心選手がつける背番号」の10番か。また、抜群のアクセントになっていた『坂本スタミナ食堂』のTAMAE(片桐はいり)は、ブラジルのユニフォームで10番だった。
いずれにしても遊び心たっぷりなのだが、本来フットサルは敵味方の区別がつかないため、両チームが同じユニフォームでプレーすることはあり得なかったりする……。それ以上に見ていて「オッ!」と思ったのは、円陣を組んだときに田村と馬場だけがこっそり手をつないでいたこと。フットサルシーンは深夜の撮影だったそうだが、そんな過酷な現場でも小ネタのアイディアが飛び出すのだから凄い。
メンバーの名言、通販、「あるよ」は?
今回も最後に、"メンバーの名言"と"通販グッズ&「あるよ」"をおさらいしておこう。
名言は川尻部長の「僕は古いタイプの検事でね、僕の取り調べは昭和の香りがするんだそうだ。キミたちは仲が良かったんだろ? その友達を死なせてしまったんだよな。真相を隠したい気持ちは分かる。犯人を隠したい。罪を逃れたい。そういう気持ちは分かる。でも友達を死なせてしまったという事実をキミはどう捉えているんだ。キミの心の中に悲しみはないのか? 悲しみよりも何かをごまかしたいという気持ちは強いのか?」。昭和の香りプンプンで、コワモテとの相乗効果もお見事だった。
通販グッズは、まさかの「なし」。ちなみに麻木がネットで注文した『世界のカーニバル』DVDボックスは2万9800円だった。一方、マスター(田中要次)の「あるよ」は2パターンを用意。1つ目は、麻木のサンバ衣裳を妄想して鼻血を出す宇野を見た事務官3人から「僕にもこんな時代ありました。マスターはありますか?」と聞かれて「あるよ」。2つ目はヤケ酒を飲みたい麻木から「95度のテキーラあります?」と聞かれて「あるよ」。
注目の視聴率は、前話の20.5%からほぼ横ばいの20.2%を記録。そして次回の目玉は江上(勝村政信)の再登場で、「特捜部の検事だけでは手に負えません。ひさびさにあいつと仕事がしてみたいです。あいつですよ。最近、刺激がないんですよ」というセリフに期待感があおられる。テーマは政治家の汚職だが、久利生が麻木のアゴをつかんで顔を引き寄せる……「キスするのか?」なんてシーンもあるなど、恋愛模様にも注目したい。
■木村隆志
コラムニスト、テレビ・ドラマ評論家、タレントインタビュアー。1日のテレビ視聴は20時間(同時視聴含む)を超え、ドラマも毎クール全作品を視聴する重度のウォッチャー。雑誌やウェブにコラムを提供するほか、取材歴1000人超のタレント専門インタビュアーでもある。著書は『トップ・インタビュアーの聴き技84』など。