1989年の日本線就航以来、25年に亘り成田~ロンドン線を運航してきたヴァージン アトランティック航空(以下、ヴァージン)が、2015年2月1日午前に成田空港を出発する便をもって運休することが発表された。発表直後からネット上には惜しむ声が次々に寄せられ、これだけ撤退が惜しまれるケースは初めてだろう。

2015年2月1日のフライトをもって、成田~ロンドン線・25年の歴史にピリオドが打たれる

「ヴァージンで出張」がひとつの憧れ

エアラインランキングでは、長期間に亘ってシンガポール航空と1位を争った常連エアラインであった。創立者のリチャード・ブランソン会長を中心に、これまでの航空業界の常識を打ち破るアイデアを次々に投入したことで、旅行者にとって憧れのエアラインに成長したのだ。

例えば、エコノミークラスでもアメニティーキットを配ったり、機内食でも和食(松花堂弁当)を選べたり、今では当たり前であるシートテレビもエコノミークラスにいち早く導入した。また、エコノミークラスとビジネスクラスの中間席である「プレミアムエコノミー」もヴァージンが先駆けであるが、それ以上に画期的だったのがビジネスクラス「アッパークラス」である。

現在でこそ、フルサービスキャリアの半分近くがファーストクラスを廃止しているが、ヴァージンは設立当初から、ファーストクラスを設置せずにビジネスクラスでファーストクラス並みのサービスを提供。スタイリッシュな機内、そしてオシャレなバーにいるかのようなラウンジ、個室型フルフラットシートをいち早く導入した。

スタイリッシュな機内にサービスの充実がヴァージンの魅力だった

また、空港と自宅もしくはホテルまでハイヤーによる往復無料送迎サービスなどを展開するなどと、若手経営者やエリートビジネスマンを中心に、「ヴァージンのビジネスクラスで出張や旅がしたい」という絶大な支持を集め、利用者数を伸ばした。結果、他社もヴァージンが運航する競合路線に真っ先に新シート(特にビジネスクラスのフルフラットシート)や新サービスを導入するなど、フルサービスキャリアのスタンダードを引き上げた航空会社としての功績も大きい。

ロンドン・ヒースロー空港では、シャワールームだけでなく、サウナやヘアサロン、マッサージルームなども併設され、食事もオーダー式となっている

新プロダクト投入よりも値下げ傾向

その反面、他のフルサービスキャリアが次々にビジネスクラスに新シートを投入し、好きな時に好きな映画やビデオプログラム、音楽を楽しめる最新鋭の機内エンターテイメントシステムを導入してきたのに対し、この10年はヴァージンから画期的な新プロダクトの投入はなかった。それよりも、ヨーロッパ内での乗り継ぎネットワークも限られていることから、高い搭乗率をキープしつつも航空券の単価が下がっている傾向が見られた。

実際、ヴァージンのウェブサイトを見ると、ビジネスクラスの割引運賃においてかつては往復50万円台であったが、現在では30万円台まで下落をしている。また、エコノミークラスにおいてはパッケージツアーなどで利用されることも多く、燃料価格高騰などによるコスト増を考えると、収益性の低下が否めないだろう。

BA&アメリカン航空 VS ヴァージン&デルタ航空

このような状況の中でヴァージンは、成田~ロンドン線をはじめ、ロンドンからのムンバイ(インド)、バンクーバー(カナダ)、ケープタウン(南アフリカ)を運休。同社に49%出資するデルタ航空と行っている英国~アメリカ線における共同事業(ジョイントベンチャー)を強化する方針を固めたようだ。

ヴァージンのクレイグ・クリーガーCEOは「大西洋横断路線は、当社の路線ネットワークの中では常に中核を占めており、採算面でも最も成功している路線」と述べ、ニック・テイラー日本支社長も「当社は運航の効率性の更なる改善を目指す戦略の一環として、航空機を適正な需要があり妥当な収益が確保できる路線へ振り向けていく」とコメントする。

アジア路線では、成田とムンバイが運休、上海・香港・デリーは運航継続となったが、航空券価格の下落&コストの上昇という部分において、成田線が運休路線に選ばれてしまった可能性がある。

長距離路線が中心のヴァージンにとっての最大のライバルは常にブリティッシュ・エアウェイズ(以下BA)である。最もビジネス需要が多いロンドン~ニューヨーク線を筆頭に英国~アメリカ路線においては、これまではBA&アメリカン航空連合の独占場であったが、ニューヨークをハブ空港とするデルタ航空と手を組み、2013年11月より共同事業が開始したことによる効果がすぐに出始めた。

デルタ航空のヨーロッパ・中東・アフリカ(EMEA)を担当するペリー・カンタルティ上級副社長も、「英国市場はデルタ航空の大西洋路線にとって重要市場で、英国とアメリカを結ぶネットワークのさらなる充実は最重要戦略」と述べるなど、ヴァージンにとっては打倒BA&収益の最大化というミッションの中で、両社の思惑が一致し、デルタ航空とのさらなる連携強化という道を選んだと推測できる。

デルタ航空とさらに連携し、ビジネス需要の多い大西洋横断路線を強化していく(写真: ヴァージン提供)

成田~ロンドン線運休まであと5カ月弱。最後に乗り納めをするヴァージンファンも多くいることだろう。すぐに日本路線を復活することは難しいだろうが、収益力をアップした上で、そう遠くない日に復活をしてほしいと願うばかりだ。

筆者プロフィール : 鳥海高太朗

航空・旅行アナリスト、帝京大学理工学部航空宇宙工学科非常勤講師。テレビ、ラジオ、雑誌などの各種メディアにて情報発信をしている。航空・旅行業界に関する役立つ情報を「きまぐれトラベル日記」にて更新中。