AMDが新たに市場投入した「Radeon R9 285」は、Graphics Core Next(GCN)アーキテクチャ世代の最新GPUコア「Tonga」を初採用したミドルハイクラスの新GPU。店頭価格が2万円台後半の、ライバルでは「NVIDIA GeForce GTX 760」が存在するゲーマー向けボリュームゾーンをターゲットにした製品だ。これの実機を入手したので、軽く性能を確認しておきたい。

入手したRadeon R9 285カードはSapphireの「R9 285 2G GDDR5 DUAL-X OC」。オーバークロック版だ

改良版GCNベースの「Tonga」コアを採用

ところで、Radeon R9 285はモデル名とポジショニングが少しわかりづらい製品だ。同じくGCNベースで既存の「Tahiti」コアを採用する「Radeon R9 280X」より下で、「Radeon R9 270/R9270X」よりも上の製品と、AMDは説明している。動作クロックやメモリなどの表に出るスペックで見ると「Radeon R9 280」より微妙に劣る。モデル名こそ"285"だが、"280"より上のモデルとは言い切れないので気に留めておきたい。各スペックは以下の表にまとめておく。

モデル R9 285 R9 280X R9 280
GPUコア Tonga Tahiti Tahiti
製造プロセス 28nm 28nm 28nm
GPU最大クロック 918MHz 1GHz 933MHz
Stream Processor数 1,792基 2,048基 1,792基
Texture Unit数 112基 128基 112基
ROP数 32基 32基 32基
メモリ容量/タイプ 2GB GDDR5 3GB GDDR5 3GB GDDR5
メモリ接続バス幅 256bit 384bit 384bit
メモリデータレート 5.5Gbps 6.0Gbps 5.0Gbps
TDP 190W 250W 250W
補助電源 6ピン×2 6ピン+8ピン 6ピン+8ピン
発表時参考価格 249ドル 299ドル 279ドル

一方でTongaは、28nmプロセスで製造するGCNベースという点でTahitiと同等だが、改良型の最新版GCNを採用したとAMDは説明している。現在わかっているものでは、テッセレーションの強化やメモリの利用効率の向上などがあるが、機能的にもTahitiに無かった「True Audio」に対応するほか、画面のカクつきやティアリングを押さえる表示技術「FreeSync」、UVDにおける4Kデコードのサポートなどが追加されている。恐らくはTahitiからCompute Unit部分を多少最適化し、あとはTrue Audio用DSPなどをオンダイで追加したかたちをもって、改良型の最新版GCNということなのだろう。

R9 280との位置関係が微妙だが、改良型GCNということで"285"ということだろう

「Tonga」コアでは、テッセレーションの強化やUVDにおける4Kデコードのサポートなどが追加されている

参考までに「Tonga」のブロックダイアグラム。True AudioのDSPも確認できる

それでは、実機で性能を確認していく。対抗機材として用意したのはもちろん「GeForce GTX 760」で、今回はリファレンススペックのカードを用意した。市場に出回るGTX 760はオーバークロック版のカードも多く、実勢価格に少し幅があるが、リファレンスに近いスペックのカードだとまず3万円は超えず、安ければ25,000円あたりで見つけることができる。R9 285は米AMDの参考価格で249ドル、店頭では現在のところ3万円を切らないあたりだが、発売直後ということも踏まえ、価格帯は同じレベルに収束していくもとの見られる。

「R9 285 2G GDDR5 DUAL-X OC」の各部写真。今回の機材はOC版だが、非OC版の「R9 285 2G GDDR5 DUAL-X」も発売しており、デュアルファンとヒートパイプの冷却ユニットは共通

GTX 760(リファレンス)と比較するとこんな感じ。この写真だとR9 285もGTX 760も似たようなカード長に見えるが、ご存知のとおりリファレンスのGTX 760はクーラー分長くなっているだけで、基板自体は短いため、Mini-ITXケースに入るようなショートカードも存在する

テスト環境は以下の通り。Radeon R9 285カードはSapphireの「R9 285 2G GDDR5 DUAL-X OC」で、オーバークロック版となっている点に留意いただきたい。

グラフィックスカード R9 285 2G GDDR5 DUAL-X OC GeForce GTX 760(リファレンス)
GPU Radeon R9 285(OC版) GeForce GTX 760
グラフィックスドライバ Catalyst 14.30.1005 GeForceドライバ 340.52
CPU Intel Core i7-4770K
マザーボード ASUS Z97-DELUXE(Intel X97 Express)
メモリ DDR3-1600 8GB(4GB×2)
ストレージ SATA6Gbps SSD 250GB(Samsung SSD 840)
OS Windows 8 64bit

「R9 285 2G GDDR5 DUAL-X OC」のGPU-Z情報。GPUとメモリにオーバークロックが施されている

こちらは「NVIDIA GeForce GTX 760」。リファレンス準拠

ベンチマークテスト

3DMarkの各スコアはご覧のとおり。比較的、負荷が高くなるとRadeon R9 285が実力を発揮してくるという傾向が見られる。もっとも、スコアの絶対値がインフレしているICE STORMなどの結果の差が、実際にゲームで遊ぶ際の違いになるとも思えない。今回のテストではRadeon R9 285のみOC版で、本来はGeForce GTX 760もOC版製品が豊富ということも考えれば、あまり明確な性能差は無いと判断するのが妥当だろう。

それでは、TDPの公称値ではR9 280から大きく削減してきたR9 285の、実際の電力効率はどうだろうか。ワットチェッカーを利用してシステム単位の消費電力を計測したのが上のグラフだが、ライバルとは殆ど変わらないという結果になった。ちなみにGTX 760の公称TDPは170Wで、R9 285の公称TDPが190Wなのだが、少なくとも3DMark実行中という条件化では、両者の電力効率に明確な差は出ないようだ。

性能で目新しさ無いが、機能追加もあり新規購入なら有力

新GPUコアとは言え、Radeon R9 285はRadeon R9 280と性能的にポジションが近すぎるため、True Audioや4Kデコードなど追加機能があったとしても、既存のR9 280ユーザーが買い換えるカードでは無い。追加機能の魅力を武器に、旧世代GPUのユーザーが新規に購入するカードがR9 280からR9 285へと切り替わるという認識が正しいだろう。

そのR9 280は、現在店頭では2万円台中盤から購入でき、発売直後の"ご祝儀"価格がつけられているであろうR9 285よりも数千円は安い。実性能でかなりピンポイントのライバルとなるGeForce GTX 760の価格帯も、安いものは2万円台中盤から、高くても3万円台前半といったところだ。そうなると、R9 285の実勢価格には「もう一声」が欲しい。今後の実勢価格のこなれかた次第では、このクラスの有力な選択肢になれると評価したい。