Appleのモバイルペイメント市場参入の噂がさらに加速している。米Wall Street Journalは9月4日(現地時間)、「iWatch」などの名称で呼ばれるAppleの腕時計型がNFCを搭載し、いわゆる「タップ&ペイ」の支払い機能に対応するという関係者の話を紹介している。さらに9月9日に発表されるとみられる新型iPhoneについてもNFCを搭載し、このiWatchとのペアリングが容易になるという。このペイメント機能はiPhoneにも搭載され、タップ&ペイの仕組みを同端末として初めてサポートする。
直近でもAppleが新型iPhoneでモバイルペイメント市場に関する参入の噂を紹介したが、こちらの記事では具体的な実装方式には触れておらず、おそらく筆者の把握している範囲でiPhoneのNFC搭載と活用事例について具体的に踏み込んだ報道を行ったのは初めてのケースだとみられる。 新型iPhoneではセキュアエレメント(SE)を搭載したペイメントサービスを提供する計画だと以前に報じているが、今回のWSJの報道では「iTunesに登録したクレジットカードを支払いに充てられる」と述べており、クラウド側に支払い情報の実体を保存して適時参照する、いわゆるクラウド型の支払い方式を採用している可能性がある。
WSJの報道ではiWatch (仮称)に関する新しい情報もいくつか提供している。Re/codeでは9月9日にiWatchが発表されたとしても今年内に発売される可能性は低いと報じていたが、WSJではある関係者の「今年中の出荷は難しい」という証言を紹介する一方で、iWatchの組み立て担当となる台湾Quanta Computerへの部品サプライヤ出荷スケジュールをAppleは動かしていないとするなど、今年内の出荷の可能性に含みを残している。
またiWatchは曲面ディスプレイを採用することになるという。iWatchのNFC搭載も新しい話で、前述のiPhoneとのペアリングのほか、タップ&ペイのような支払い機能も備える点にも触れている。ただ、iWatchはクラウドへの直接アクセス機能を持たず、支払い情報を保持しているのはiPhone側とみられるため、Bluetoothによる両デバイスのペアリングが有効なときのみ利用可能な機能となるかもしれない。
一連のニュースに関して興味深いのが、Appleが「セキュアエレメント(SE)を本体に内蔵して従来方式のNFCによるタップ&ペイ方式の支払いシステム」を採用したという点だ。これまで独自の支払い方式を採用する可能性についても取り沙汰されていたAppleの同分野参入だが、NFCによるタップ&ペイであれば、すでに全米を含む世界中の小売店で対応POSが登場しつつあり、この仕組みをそのまま利用できるようになる。
一方で、セキュアエレメント内蔵方式(eSE)の採用により、Appleは携帯キャリアのMNO-TSMを介さずともeSEへのアクセスが可能になり、サービスの柔軟性を確保できる。このeSE方式は過去にGoogleが採用して携帯キャリアとの軋轢を生み出し、SamsungはGalaxy S4で採用したものの対応アプリを出せずにほぼ自然消滅していってしまったという経緯がある。Appleとて過去の因習とは無縁ではないものの、時代の流れが変わりつつあり、業界関係者の「iPhoneでのNFC採用」にかける期待の大きさもあり、また違った展開を見せてくれるかもしれない。