8月26日放送の第7話が3.6%の記録的低視聴率で話題になったドラマ『あすなろ三三七拍子』(フジテレビ系毎週火曜21:00~)。9月2日放送の第8話は5.5%とやや盛り返したものの、平均視聴率ではいまだ最下位に停滞している。
しかし、その一方で涙腺崩壊者を続出させ、『YAHOO!テレビ』「ドラマクチコミランキング」であの『HERO』に迫る33番組中5位に浮上。先週に限定すると、『HERO』をはるかにしのぎ、朝ドラ『花子とアン』に次ぐ2位を記録している。
しかもそのクチコミは、「毎週家族で涙を流しながら見ています」「文句なしで今クール一番」「逆に見てない人が残念に感じる」「初めて投稿します。このドラマを応援したいから!」「男の人(主人)がこんなに泣いたのを見るのは初めて」「しょうもない特番に代わるのなら打ち切らないで」と熱狂的なものばかりだ。
さらに、「ドラマ『あすなろ三三七拍子』の完走を見届け、連ドラ打切りシステムを無くそう」という署名ページが生まれるなど、同番組の"応援団"が増え続けている。
実際、私も評論家として冷静な目で見ようとしているのだが、毎回泣かされてばかり。放送は残すところ1話のみだが、それでも見る価値のある作品だけに、最終回に向けてその誤解を解き、魅力を伝えていきたい。
痛かった"第ゼロ印象"のつまずき
視聴率低迷の理由は、多くの人が思っている通り、"応援団"というテーマへの違和感が大きい。「汗、涙、一生懸命」でもピンとこない時代なのに、「年功序列、命令、理不尽、しごき」と聞いたら、その入り口だけで敬遠した人が多かったのではないか。
しかも、「"おっさん"の柳葉敏郎が団長になる」荒唐無稽な設定と、ネットで叩かれやすいキャストたちの共演が知れ渡ったことで、スタート前からその流れが加速度を増した。一度も見てないのに、「意味不明」「時代遅れ」「暑苦しいだけ」などのネガティブなクチコミが飛び交い、事態はどんどん悪化。言わば、第一印象以前の"第ゼロ印象"が極めて悪かったのだ。そして案の定、初回視聴率は今期プライムタイム(19~23時)最低のわずか7.7%に留まってしまった。
また、ゆったりとしたテンポで説明的な描写の多かった第1話を見て、「おっさんが学ラン姿で声を枯らして叫ぶドラマ」と見なした人もいただろう。しかし、このように最初の1~2話は派手な演出に走らず、丁寧な描写で綴っていくのは連ドラの王道。こんな序盤があるからこそ、中盤、終盤に向けてキャストへの感情移入やカタルシスが高まっていくのだが、昨今の視聴者は想像以上にせっかちだった。一度「ダメ」どころか、「微妙」とみなしたものですら、もう二度と見ようとしないのだ。
そしてもう1つ忘れていけないのは、フジテレビによる宣伝不足。『HERO』はスタート前から大量に番宣が施され、思わぬ苦戦を強いられた『若者たち2014』もテコ入れ策が見られたが、同作品はほぼなし。連ドラのテーマには、番宣での内容説明やフォローが必要なものと不要なものがあるが、続編&リメイクの前2作品より『あすなろ三三七拍子』は明らかに必要な部類。つまり、手をかけてあげるべき作品なのに、誤解を解く作業すらしなかったのは残念でならない。「数字を取れそうなところに力を入れる」「ダメなところは早めに打ち切ればいい」という姿勢で視聴者の支持を得られる時代ではないのだが……。
次の作品に影響必至の絶叫エール
では、なぜ『あすなろ三三七拍子』がここまで熱狂的なファンを集めているのか? 考えられる理由は以下の5つ。
1つ目は、団員たちの必死な姿。まず「大雨の中で懸命のエール」「地獄の合宿で倒れそうな団員たちにOBが声を枯らしてエール」「病院前で親友に向けて無言のエール」「多摩川で今までの悲しみを叫んだエール」「家を出た妻に対する愛のエール」など応援の背景にグッとくる。しかもそれを演じる柳葉敏郎は、夏場に長ランを着込み、常に顔は紅潮し、声はガラガラ。次の作品に影響がありそうなほど身を削り、声帯を痛めつけてエールを送り続ける姿は、理屈抜きで感動を誘う。
2つ目は、目新しさと連ドラらしさ。「人が殺されてばかりの刑事モノに飽きた」「今クール連発の不倫モノは受けつけない」などショッキングな設定・演出に頼ったドラマが多く、それに辟易している人は多い。しかし、同作品にはドロドロの人間関係は一切なく、あるのは「等身大の日々を懸命に生きる」人々の姿だけ。そしてこうした熱い群像劇は、80~90年代の"連ドラ黄金期"によく見られた作風だったりする。
3つ目は、それぞれの立場から見た人間関係の面白さ。「現役団員とOB」「応援団とチアリーダー部と吹奏楽部」「応援団とライバル校応援団」「団員とその妻子」など、実に多彩な対比があり、そこから発生する人間ドラマが味わい深い。ときに反発し合い、ときに立場を超えて応援し合う姿が感動を呼んでいるのだ。とりわけ楽しいのは、イマドキな現役団員・翔(風間俊介)と時代錯誤なOB・齊藤(反町隆史)&山下(ほんこん)の相容れない関係。ただ、OBたちのシゴキは単なる理不尽ではなく、全て意味が込められている。
4つ目は、何気に豪華なスタッフ。原作は数々の受賞歴を残る重松清、脚本は『Dr.コトー診療所』の吉田紀子ら、演出は『謎解きはディナーのあとで』の土方政人ら、音楽は『あまちゃん』の大友良英、主題歌はスピッツと、実は盤石とも言える布陣なのだ。
5つ目は、名言の数々。あまり知られていなかった"応援の意味"に加え、人生にも当てはまる名言がポンポン飛び出すのは、人と真剣に向き合っているからなのか。最後に名言を挙げておいたのでぜひ見て欲しい。
感動の第5話はスタッフすら涙……
なかでも出色だったのは、小林プロデューサーが「原作を読んで最も映像化したいと思っていたエピソード」と話す第5話。主なあらすじは、以下の通り。
団員の健太(大内田悠平)は、病院で余命わずかの父・康夫(三浦誠己)に付き添っていた。康夫は団のOB・齊藤(反町隆史)と山下(ほんこん)の同級生であり、当時の野球部エースだが、ある日容体が悪化。それを知った齊藤と山下は大介(柳葉敏郎)と3人で病院へ向かう。すると健太は、昨晩一度だけ目覚めた康夫と少しだけ話ができたことを明かしはじめた。
康夫は健太に語りはじめた。「人間には2種類の人間がいる。人のことを応援できる人間と応援できない人間だ。人の事を応援できない人間は、人からも応援してもらえない。お前は応援団に入ったんだ。とにかく心から人のことを応援できる人間になれよ」「オレはそんな人のことを応援できるやつは2人だけ知っている。同期の齊藤と山下だ。オレはマウンドで投げているとき、あいつらに励まされて投げ抜いたんだ。ピンチになってうつむいたとき、スタンドから山下の太鼓が聞こえてくる。『顔あげんかい! まだ負けたわけやないぞ! はよ顔あげんかい!』、そうやって山下の太鼓に励まされて顔を上げると、スタンドのてっぺんに齊藤の掲げる団旗が見えるんだ。風の強い日に旗が音を立ててバタバタ広がっても、あいつはビシッと旗を立てて、それを見てると『オレも頑張らなきゃ、ここで逃げ出すわけにはいかない』と思って立ち直れたんだ」「でもオレやっぱり打たれて、もうダメだって思って心がオレそうになったときに齊藤と山下のバカでかい声が聞こえてくる。あいつらがオレを信じてずっと声を出してくれている。だったらオレもその思いに応えなきゃって、粘って粘ってひたすら投げ抜いたんだ。だから健太、あいつらみたいに心から人のことを応援できる人間になれよ」と約20年間、秘められていた思いを明かした。
これを聞いた山下は「届いてたんや、わしらの応援が……」、齊藤も「ああ、当たり前じゃ!」と感動。病院の外へ出て、当時のように離れた場所から無言のエールを送りはじめた。
康夫は「齊藤と山下はきっとどこかでオレのことを見てる。あのころ、スタンドから見てたように。だから『あいつらに恥ずかしくないように生きなきゃ』とずっと思っていた」とも語った。これを聞いた健太は、「自分、団に入って本当によかったと思います」と確信。大介は「あとはお前だ。とにかくそばにいてお前のエールを親父さんに届けろ」と力強く励ました。
さらに大介は翔(風間俊介)に向かって、「お前はあのエールがぐっさん(康夫)に届いてないと思うか? どれだけ応援しても奇跡は起こらないかもしれない。でもあのエールは、絶対ぐっさんに届いてる。オレたちはひたすら応援することしかできない。だがきっと、それでいい」とうなずいた。最後は沙耶(剛力彩芽)も加わって全員で病室へエールを送り、康夫の死を見届けた健太は病室の窓を開け、「押~忍!」。団員たちも「押~忍!」で返した。
その他、保阪(風間俊介)の団に対する想い、チアリーダー部部長・玲奈(高畑充希)の葛藤もあり、見どころ尽くし。「撮影現場でも多くのスタッフがリハーサルの時点から涙をこぼしていた」というから、見逃した人もオンデマンドで見てはいかがだろうか。
応援団と聞くと、精神論のような印象を受けるが、このドラマから感じるのは、信頼と優しさ。「誰かを応援したくなる」「大事な人を大事にしようと思える」ものが詰まっている。
心に染みる名言がズラリ
最後に、ここまで読んでもピンとこない人に向けて、同ドラマの名言集を挙げておきたい。
「応援というものは、そもそもごう慢なことなんです。精一杯頑張ってる人間に『もっと頑張れ』と言うわけですから。ですからわれわれ団は応援される人間よりも、もっともっとたくさん汗をかくんです。人に『頑張れ』と言うからには、応援するわれわれがもっと頑張らなければ応援する資格なんぞ持てません」
「(地獄の合宿から逃げようとした部員に)お前はここまでよく頑張った。お前はな、一番最初にオレのところに訪ねて来てくれた団員だ。だからいなくなったら痛い。でも、お前は十分頑張った。だから、これを挫折だなんて思うなよ」
「『団は家族じゃ』言うたじゃろ。隠し事はしない、困ってたらすぐに飛んでいく、家族はどんなことがあっても家族じゃ。どんなことがあっても応援する。それが家族なんじゃ」
「私は今まで、まわりのみんなを応援する側の人間だと思っていたんですよ。でも、本当は同期とか後輩とか周りのみんなに応援されてたんだな、って部長になって初めて気付いたんです」
「人生も応援も同じようなものなんじゃないかな。失敗に失敗を重ねて、恥を幾重も上乗りするようなことになっても、人はそうやって成長していくもんじゃないか。先があるってことは幸せなんだぞ」
「学ランはなあ、団の魂だ。学ランの襟が何でこんだけ高いか知ってるか? うつむかないようにするためだ」
「わしは団の人間だから、家族のことも人一倍応援したいと思うとるし、できているとも思うていた。でもいなくなって気づいたんだ。わしが応援していたんじゃない。家族が応援してくれてたんじゃ」
「(家を出た妻に向けて)結婚して20年、オレはお前を幸せにしてきたつもりでいた。いつも応援してきたつもりでいた。しかし、応援してるのはオレじゃない。オレはお前から応援されていたんだということにようやく気がついた。『押忍』と書いたパン、食べずに捨てさせてしまった。ごめん。朝食をパン食で続けてくれたり、学ランにアイロンかけてくれたり、今まで全部だ。お前はそうやってずっとずっとず~っと、オレを応援してれくれていた。お前がいなくなるまで、そんなことにも気づけないオレは、大馬鹿野郎の夫である! がしか~し、これだけは言わせてくれ。オレは家族を愛している。(娘の)美紀を愛している。ず~っと変わらず(妻の)藤巻広子を愛している。そんなオレでもこれからもずっと応援して欲しい。そして、オレにも全力で応援させてくれ!」
書いていて熱い気持ちになるドラマもあまりないのだが、いかんせん文字では伝わらないところがある。それでもみなさんに伝えておきたいのは、「この作品が認められないのなら、人間の良心を描いたハートフルなドラマが消滅しかねない」ということ。これ以上、人間の暗部を描く刑事ドラマや、悪を懲らしめる勧善懲悪モノが増えて、誰が得をするというのだろうか。その責任は制作サイドだけでなく、視聴者にもあるような気がする。
押忍。『あすなろ三三七拍子』のキャストとスタッフに、全力でエールを送ってコラムを締めくくろう。
■木村隆志
コラムニスト、テレビ・ドラマ評論家、タレントインタビュアー。1日のテレビ視聴は20時間(同時視聴含む)を超え、ドラマも毎クール全作品を視聴する重度のウォッチャー。雑誌やウェブにコラムを提供するほか、取材歴1000人超のタレント専門インタビュアーでもある。著書は『トップ・インタビュアーの聴き技84』など。