左から川上量生プロデューサー、白石晴香、宇山玲加、宮崎吾朗監督

スタジオジブリのアニメーション映画『ゲド戦記』や『コクリコ坂から』を手がけた宮崎吾朗監督が初めて挑むTVアニメ『山賊の娘ローニャ』の完成披露試写会が2日、東京・NHK放送センターで行われた。試写会後の記者会見には宮崎吾朗監督をはじめ、ドワンゴの川上量生プロデューサー、ローニャ役の白石晴香、ビルク役の宇山玲加が登壇し、作品への思いを語った。

『山賊の娘ローニャ』は、『長くつ下のピッピ』で世界的に著名なアストリッド・リンドグレーンによるファンタジー小説『山賊のむすめローニャ』を原作にしたTVアニメ。中世ヨーロッパ風の世界に広がる雄大な森を舞台に、山賊・マッティスの一人娘として生まれたローニャの大冒険を描いていく。

会見に登壇した宮崎監督は本作を手がけることになった経緯について、「『コクリコ坂から』を作った後、ジブリで腐っていたのですが、そこで川上さんが見るに見かねて声をかけてくれたのがきっかけ」と話す。その際、鈴木敏夫プロデューサーからは「ジブリにいる限り、どんなことがあっても宮崎駿の影響からは逃れられない。武者修行だから」と告げられたと言い、本作を3DCGで表現したことについても「どうせやるんならCGにしなよ」とアドバイスされたことを明かした。

このアドバイスに最初は「そんなバカな」と思ったという宮崎監督だが、「もともと僕はアニメーションを若い頃からやってきた人間ではないので、新しいものに取り組むのは嫌ではない。あえてCGでやってみようと思いました」と、新たな表現に挑戦することを決めた。川上氏によれば、3DCGには既存のアニメーションにはないメリットもあるという。

「TVアニメでは、第一話はクオリティが高いのに、時間とお金の問題で力尽きていくことも多いと聞きます。今回はCGなので、一旦モデルを作って動かしていくと、経験が蓄積されてだんだんクオリティが上がっていきます。ですから、基本的にクオリティが下がることはありません。ありえるとしたら、"できない"ということですね(笑)」(川上氏)

宮崎吾朗監督

川上量生プロデューサー

制作に入った宮崎監督も川上氏と似た実感を持っているという。

「けっこういけるじゃんと思いました。アニメに関してはこの後、もっとよくなっていくんじゃないかと思います。心配しているのは、本当に完成するのかです(笑)」(宮崎監督)

実は宮崎監督は、以前にも『山賊の娘ローニャ』を映画化しようと試みたことがあった。映画の企画を考えている際、たまたま原作小説を読む機会があり、ちょうど子どもが生まれたばかりだった宮崎監督は、物語の中で親になったマッティスの喜びに共感したのだという。ただ、物語のスケール的に2時間に収めるのが難しく、断念。その後、制作されたのが『コクリコ坂から』だった。今回はTVアニメとして、長い期間をかけて原作の魅力をじっくりと映像に落としこんでいく。

ストーリーの軸となるのは、山賊の娘として生まれたローニャの成長だ。ローニャは物語の中でビルクという少年と運命的な出会いを果たすが、二人の恋愛がテーマではないという。

「ローニャとビルクは互いのことを兄弟だと思っており、二人のラブストーリーではありません。むしろラブストーリーがあるとすれば、それは父娘のラブストーリーです。(視聴者は)ローニャを通してものを見ていきますが、親やおじいさんの立場から見るとどうなるか。3世代くらいが入り混じって話が進んでいきます。本作は家族の物語であり、少女を通して家族を描いていることが原作の魅力でもあります」(宮崎監督)

ローニャを演じた白石晴香は、「最初は大声で笑う(演技)だけでも難しかった」と収録を振り返り、「でも、だんだんお父さんに似てくるローニャが本当にかわいくて(笑)」と語る。

白石晴香

宇山玲加

一方、少年役の声優は初挑戦だというビルク役・宇山玲加は、「まさかオーディションに受かるとは思いませんでした。どうやったら男の子らしく聞こえるかで頭がいっぱいです」と初挑戦への不安と意気込みを述べ、「実際に収録すると、アットホームな雰囲気で現場も楽しく、皆さん優しく接してくださっています。ローニャに比べて少し思慮深い男の子という設定なのですが、同じように山賊の息子ではあるわけですから、ワンパク坊主なところを出すのに苦労していますね」と奮闘ぶりを語った。

なお、「武者修行」ということでジブリの外に出た宮崎監督だが、以前にも似た状況で鈴木プロデューサーに"だまされた"ことがあると話す。

「以前ジブリの森美術館の館長をやっていたのですが、映画(ゲド戦記)が終わったら館長に戻れるからと鈴木プロデューサーに言われていたにも関わらず戻れなかったので、今回も武者修行に出たきり戻れなくなるんじゃないかと(笑)」(宮崎監督)

会見後のインタビューでは、鈴木プロデューサーが宮崎駿監督の後継者として『エヴァンゲリオン』シリーズで知られる庵野秀明監督を推している件に話が及んだ。宮崎吾朗監督は、自身について「宮崎駿のような作家だとは思わない」と述べ、「後継者にはなりようがないと思います」と語った。

「アニメの原点に戻って子どもたちのために丁寧に作る」(川上氏)という『山賊の娘ローニャ』は、NHK・BSプレミアムにて10月11日よりスタート。毎週土曜日19時からの放送で、全26話を予定している。