ファニーでキュートなコンパクトカーの象徴的存在として、すっかり日本でも定着したフィアット「500」シリーズ。そのためか、同じフィアットのコンパクトカーである3代目のPandaは、若干影が薄い印象を受ける。初代、2代目があれほど軽快で楽しいコンパクトカーとして鮮烈な印象を与えていたにも関わらず、だ。というわけで、今回はそんな3代目「Panda」に試乗してきた。
現行型のPandaは、従来のPandaシリーズそのままの軽快さを備えつつ、搭載する"ツインエア"こと875ccの直2ターボエンジンは、評判通りアクセル応答性の良い、軽快なパワートレインだ。上り坂での発進でもしっかり加速し、このクラスとしてはかなり厚めのトルクが味わえる。実感値としては、1.4~1.5Lくらいのエンジンを回している感覚だ。4000-5000回転くらいまで引っ張って、ポンポンとテンポ良くシフトアップしていくと、思わず笑っちゃうほど楽しい。
乗り味に関しては、スペシャリティクーペらしくガッシリ感や塊感を主張している「500」に比べ、実にしなやか。エントリーカーだから荒れた路面では多少コツコツするし、フランス車のようなフワッっとした味わいまではいかないけれど、しっかりしなるし、粘るし、いなす。スポーツ選手に例えると、全体的に「500」は足下がドッシリした小兵力士、Pandaは軽快な跳躍系の陸上選手のような印象をもった。
そしてコーナーリングではロールが少なく、常に水平な状態を保っているような感覚を受けた。日本の軽自動車やコンパクトカーでいう「セミトールワゴン」に近いサイズなので、さすがに路面に吸い付くような走りとまではいかないが、腰高には感じることはなく、むしろ走行感覚としては外見よりはるかに低重心であるかのような感覚だ。
一方でやや高いアイポイントは、運転のしやすさにも貢献している。そもそもスクエアなボディなため、車幅感覚を掴みやすく、女性でも安心して乗ることができるだろう。頭上スペースに余裕があるため、狭苦しさも感じないし、室内幅も国産軽自動車のような狭苦しさはないため、大柄な大人2人が横に並んでも不快に感じることはないだろう。また、全高が一般的な立体駐車場にも収まる1550mmというサイズであるのも嬉しいところだ。
賛否が分かれそうなのが、フィアット伝統の5速シーケンシャルミッション「デュアロジック」。トルコン式ATやツインクラッチ型のセミATに慣れたユーザーは、馴染むまでいささか時間が必要だろうが、インパネのシフトレバーでアップダウンをカコカコ操作する楽しさは、試してみれば誰もが分かるはず。以前は申し訳程度の出来栄えだったATモードも、それほど違和感のないレベルまで達してきた。
「500」に比べればインパクトに欠けるが、それでも細部の意匠は本国では軽自動車的扱いの車であるとは思えないほど、なんともイタリア車らしい凝り方を見せている。ドアを開けるとパッと目に入る、幾何学的なシート柄や湾曲したパネルデザイン、握るように掴むパーキングブレーキはその象徴的存在だ。明るい色づかいや、丸みを帯びた四角い「スクワークル」が随所に見られるから、女性向けかといえばそういうわけでもない。男性が乗って気恥ずかしさを感じる部分は、全くないといえるだろう。
あえてDINサイズにとらわれなかったオーディオや、曲線的なサイドのエアコン吹き出し口、そしてパネルに浮かぶ「P」「A」「N」「D「A」の5文字など、そのほかにも独創的な工夫が随所に見られるのだが、それらの素材自体はそれほど高価なものではなく、むしろチープなプラスチックやファブリックを、創意工夫でここまで"魅せる"ことが素晴らしい。エクステリアは2代目の正常進化といえるデザインだが、コンサバティブなルックスは洗練された雰囲気を漂わせている。
意外と言っては失礼だが、国産の小型車が得意とする細かい機能も、抜かりなく装備している。燃費面ではダウンサイジングエンジンに加え、アイドリングストップ機能を装備することで、JC08モード燃費は18.4km/Lとなっている。上り坂での発進時で後退を防ぐヒルホールドシステムも付けられた。欧州車らしく、6エアバッグやESC(エレクトロニックスタビリティコントロール)など小型車でも安全装備に妥協がないのも特徴的だ。
ボディとエンジンのサイズは、日本の市街地にドンピシャ。燃費性能や使い勝手、機能面にも全く隙はない。209万5200円という車両本体価格も、オプションてんこ盛りで価格の跳ね上がった国産車と比較すれば、十分検討に値する価格と言えるだろう。