「ストレス社会」とも言われる現代において、「うつ病」という言葉の認知度は一昔前に比べると上がってきていると言える。ただ、うつ病の症状や原因などをしっかり理解できている人は多くないだろう。今回はうつ病を発症する仕組みについて桐和会グループの精神科医・波多野良二先生に伺ってみた。
脳内の神経伝達物質の減少がうつ病の原因
誰でも、大なり小なり、ストレスを抱えて生きているものである。仕事での厳しいノルマに悩んだり、結婚相手にいらだちを覚えたり、親からの「勉強しろ」という言葉にうんざりしたり……ストレスの原因は人によってさまざまだ。
そのストレスが、自分の許容範囲(ストレス耐性)を大きく超えている状態が続くと、それがうつ状態に陥る引きがねになる。そして、それがあまりに長期間続くようだとうつ病が疑われる。では、精神科で「うつ病」と診断された場合、それは脳科学の見地からすると、どのような状態を表すのだろうか。
「一言でいえば、うつ病は、脳内の神経伝達物質が減少することによって生じる『脳の病気』です。生活習慣や思考を変えたり、必要であれば薬の力を借りて、少なくなってしまった神経伝達物質を増やしたりすることで症状が改善されます」。
うつ状態は誰でもなる可能性がある
神経伝達物質の具体例を挙げると、「セロトニン」「ノルアドレナリン」「ドーパミン」などが該当すると波多野先生は話す。
「セロトニンは減少すると不安感が増大します。光によって増えるので、日中は積極的に外に出て、日光を浴びましょう。夜になると、セロトニンはメラトニンという物質に変化して眠くなるので、不眠症にも効果がありますね」。起床時にカーテンを開け、太陽の光を浴びることによって目をしっかりと覚ます人も多いだろうが、実はこの行為もセロトニンを増やす上で効果的なのだ。
「ノルアドレナリンは学習能力や遂行能力などに関わり、これが減少することで仕事でミスが増えたり、家事を最後まで実行できなくなったりします。また、身体の不調を感じ痛みに敏感になることもあります。ドーパミンは分泌されると幸福を感じます。減少すると、それまで楽しんでいた趣味やスポーツへの興味が無くなるなど、喜びを感じにくくなります」。
波多野先生は、うつ状態に陥る可能性についても言及してくれた。
「うつ病は誰もがなるとまでは言えませんが、うつ状態は誰でもなる可能性があります。現在主流の抗うつ剤は、脳内の神経伝達物質の減少を防ぐことで改善を図っています。うつ病以外のうつ状態では、一般的に抗うつ剤は効果が期待できません。正しい知識が普及することで、うつに対する周囲の理解やケアも進んでいくといいですね」。
多くの体の病気に適薬があるのと同様、脳の病気にも適薬がある。うつかもしれないと自覚したり、あるいは周囲が心配して通院を促されることがあれば、自己判断せずきちんと精神科を受診するようにしよう。
写真と本文は関係ありません
記事監修: 波多野良二(はたの りょうじ)
1965年、京都市生まれ。千葉大学医学部卒業、精神保健指定医・精神科専門医に。東京の城東地区に基盤を置く桐和会グループで、日夜多くの患者さんの診療にあたっている。