18日に放送されたドラマ『HERO』(フジテレビ系毎週月曜21:00~)の第6話では、遠藤事務官(八嶋智人)の誤認逮捕をきっかけに、さらなるチームワークを見せた城西支部のメンバー。25日の第7話は前回の凶悪犯から一転、事件もメンバーの話題も恋愛絡みのソフトなテーマを持ってきた。1話完結型のドラマは、とかく「またこんな感じのパターンでしょ」と先読みされて飽きられがちだが、『HERO』このような緩急が上手い。
今回のファーストカットは、久利生(木村拓哉)と馬場(吉田羊)の会話から。まず2人は、久利生「ああ、DVね」、馬場「33歳の男が同棲していた女性を殴ってケガさせちゃったの。被害者は実家に逃げ帰っちゃって」と事件の概要を明かす。続いて、馬場「私、ちょっと時間かけたい案件あって(だから手伝って)」、久利生「ああ、分かります。いいっすよ全然OKっす」、馬場「ホント? ありがとう。ここ私がおごるね」。いつの間にか、この2人はツーカーの仲になっている。
そしてここから"夜の馬場検事"が炸裂。馬場「だからだいたいさ、女を殴るようなダメ男とズルズルつき合っている方がバカなのよ」、久利生「でもね、男女の仲っていうのはいろいろと……」、馬場「要するに女が甘やかしてるんでしょ?」、久利生「とはいえ女の人も、そういう状況も好きっていうか、楽で一緒にいるっていう人もいるんじゃないですか?」、馬場「どうしようもないヤツだって、ダメ男だって分かっててもさ、愛想尽かせないのよ私……あいつのどこがいいんだか、自分でもよく分かんね。はあ…………田村~!」。今回はこの会話が、その後の結末を暗示していた。
『風の家』と久利生のバカンス
久利生は麻木(北川景子)と1泊2日の熱海出張へ行き、馬場は元夫の弁護士・梶原(戸次重幸)と再会。田村(杉本哲太)、宇野(濱田岳)、末次(小日向文世)がそれぞれ嫉妬する中、久利生は捜査を進めていく。
今回の見どころは、久利生が見せた普段以上の"超検事"ぶり。加害者・城山(竹財輝之助)を許そうとするDV被害者さくら(中村ゆり)に、「やっぱりそうなっちゃうんですよね」と頭を抱えながらイラ立ちを見せ、検事バッジをつけたネックレスをクルッと後ろに向けた瞬間スイッチオン。「こっからは法律とかそういう意味じゃなくて、オレ個人的な意見です」と熱血演説をはじめたのだ。
さくらが「私は仕方なく彼とつき合っているんじゃありません。彼のことが好きだから」と食い下がっても、「だったらなおさら彼の間違いを、甘えを許したらいけないんじゃないですかね。彼がやったことっていうのは犯罪になることですから。もし裁判で有罪判決になったとしても、さくらさんの気持ちが本当のものだったら全然大丈夫じゃないですか?」と熱いジェスチャーを交え、瞳を潤ませながら説得した。
そもそも、1泊での出張、リゾートホテルに宿泊、女性だらけのプールサイドで食事、しかも、その姿は白のタンクトップ1枚など、いつも以上に検事らしからぬ……というよりバカンスっぽい描写が目立った久利生。つまり表のテーマは「恋愛に疎そうな久利生が被害者の恋愛相談をスカッと解決」であり、裏テーマは「検事のイメージから真逆のバカンス」だったのではないか。
ちなみに、久利生がさくらから2度にわたって事情を聞いた店の名前は『風の家』。「風向きさえ変われば、被害者もきっと立ち直り、新たな人生を歩める」というメッセージだったのかもしれない。
久利生にお似合いなのは誰か?
もう1つ気になったのは、久利生と麻木の関係。「リゾートホテルへの1泊旅行」に加えて、「麻木の夏カゼがきっかけで、2人の距離が近づく」というシーンが何度かあった。
麻木の「プシッ」という珍くしゃみを久利生が「炭酸か!」とイジってじゃれていたのは序の口。久利生は麻木の体温を4度も聞き、『奥熱海診療所』で診療を受けたら迎えに行き、「ゼリーかなんか買ってきてやるよ。薬飲む前に何か腹に入れた方がいいだろ」と気づかい、部屋で眠る麻木の首筋をさわって布団をかけ、「おやすみ」と声をかけるなど、"恋人モード"の優しさ全開だった。
一方の麻木も「優しいところあんじゃん」と喜んだり、「エッ、久利生さんにすっぴん見せるんですか?」と言いつつもっと恥ずかしい『クールマンZ』(詳しくは後述)をつけた顔を見せたり、ますます心を開いた様子。カゼで同行できなかったものの、「ただ前を向く勇気がないだけかも。そんなんじゃダメだって分かっていても、きっとそこにいる方が楽なんですよ」と考え方は久利生と完璧にシンクロし、報告書はきっちり仕上げるなど、すでに息はピッタリだ。また、ラストの「私のカゼうつりました?」もまんざらではなさそうに見えた。
そういえば久利生は、ホテルのプールで水着女性を見ても、かわいい店員さんがサンドイッチを運んできても、全く興味を示さなかった。「仕事中だから」なのか、「麻木が気になるから」なのか、それとも、まだ雨宮検事(松たか子)に一途なのか、今後の展開に含みを持たせた。ただ、木村拓哉41歳、北川景子28歳、松たか子37歳という実年齢を踏まえると、むしろ吉田羊との2ショットが一番お似合いな印象も。実際、馬場が久利生にもたれかかるシーンは、どう見てもカップルのそれだった。
メンバーの名言、通販、「あるよ」は?
今回も最後に、"メンバーの名言"と"通販グッズ&「あるよ」"をおさらいしておこう。
名言は今回も2つをピックアップ。1つ目は久利生の「司法における刑罰というのは、被害者の報復感情に報いるっていう側面があるんです。でも逆に言えば、被害者の方が望まなければ刑罰を与える必要がないという理屈になるかもしんないですね」。どんな人にも分かるような言葉を選び、決して無理強いしない久利生の人柄がよく表れていた。2つ目は馬場の「(被疑者に)博多出身……ウチは久留米たい。九州女がず~っと黙ってちゃいかんやろうもん。あんたがしたこつばいかんことばってんがくさ、それであんた自身ば否定しようとか思うとらんとたい。人間は誰だって間違いを犯すと。ウチはね、あんたの気持ちばちゃんと聞きたかと」。最後にバシッと決めてくれた上に、博多弁の意外性も抜群だった。
通販グッズは、頭につけて冷やす『クールマンZ』1980円。久利生が麻木のために熱海のリゾートホテル『ロイヤルウイング』までクール便で送ってもらっていた。そして、マスター(田中要次)の「あるよ」はスイカ。オープニングで女性客から「マスター返事してよ」と言われても、エンディングで電話がかかってきても無言で、やっぱり「あるよ」しか言わなかった。
次回はラブから再びシリアスへ。暴力団の関わる殺人事件に久利生はどう立ち向かっていくのか。最終回まで残り1カ月、まだまだ楽しませてくれそうだ。
■木村隆志
コラムニスト、テレビ・ドラマ評論家、タレントインタビュアー。1日のテレビ視聴は20時間(同時視聴含む)を超え、ドラマも毎クール全作品を視聴する重度のウォッチャー。雑誌やウェブにコラムを提供するほか、取材歴1000人超のタレント専門インタビュアーでもある。著書は『トップ・インタビュアーの聴き技84』など。