先週は、月例更新プログラムを導入すると、Windows Vista/7/8/8.1が起動しなくなるBSoD(BlueScreen of Death)が発生した。久しぶりに大規模な問題であったが、今週はMicrosoft前CEOのSteve Ballmer氏が取締役を退任した件についてレポートする。

Microsoftの取締役から退任したBallmer氏

本誌もニュースで取り上げたとおり、Microsoftの前CEO(最高経営責任者)であるSteve Ballmer氏が取締役を退任した。Ballmer氏は現CEOであるSatya Nadella氏へのメールで、34年間努めてきたMicrosoftへの愛情を表し、今後も株主として新しいアイディアを提案していくと述べている。

写真は2013年に来日した際のSteve Ballmer氏。今後は約20億ドルで買収した北米のプロバスケットチームLos Angeles Clippers(LAクリッパーズ)の経営と、教鞭を執ることに注力するという

さて、Ballmer氏がCEOを1年以内に退任すると発表したのは2013年8月23日(以下すべて米国時間)、Nadella氏が新CEOの席に着いたのが2014年2月4日、そして今回の取締役退任。この間のMicrosoftの株価推移をGoogle Financeで確認してみよう。

2013年8月の株価は31~32ドルを推移していたが、Ballmer氏のCEO退任発表で34.75ドルまで上昇。その後、好材料とともに順調に推移し、Nadella氏がCEOに就任した日は36.35ドルに。2月1日から3日までは売りが先行していたことを付け加えておく。そして取締役退任の8月20日は44.95ドルに達した。

2013年1月から2014年8月下旬までにおけるMicrosoft株価。赤字は筆者が加えたもの

Ballmer氏のCEO退任が投資家から好材料として受け取られたのは、同氏がCEOを務めた13年の間に株価は約45%も下落し、近年はワーストCEOに数えられるほどだったからだ。もちろん、ITバブルの崩壊やMicrosoftに対する反トラスト法訴訟問題が大きく影響したのだが、最終的に株価は回復していない。

周辺からBallmer氏に関する話を聞くと賛否両論あるものの、彼ほどリーダーシップを持ってMicrosoftを牽引してきた人物はいないだろう。経営幹部候補としてMicrosoftに入社したBallmer氏は、コード1行すら書くことはできなかったが、Windows開発部隊のディレクターに就任。技術を持つ部下たちに指示を出し、パワフルに鼓舞していたという。初期のMicrosoftにおける攻撃性はGates氏とBallmer氏によって培われた、と述べてもいいだろう。

Ballmer氏は今後、株主の1人としてMicrosoftとの関係は残るが、経営に直接タッチすることはない。Microsoft創業者であるBill Gates氏は、現在は会長職を退任してテクニカルアドバイザーという役職で取締役会に残っている。Microsoft共同設立者のPaul Allen氏は2000年に取締役会を退任済みだ。

現在のMicrosoft取締役会。Gates氏はテクニカルアドバイザー。会長はJohn Thompson氏

推測の域を超えないが、Nadella氏にとって、初代創業者や前CEOが取締役会にいる状況は、共和政ローマ末期の三頭政治に似たやりにくさがあったのではないだろうか。先月発表した過去最大のリストラ計画に関しても、「組織のフラット化とトップダウンを実現し、意思決定を加速化させるべきだ」と述べている。つまり、今までは逆の状態だったのではないだろうか。

現在のMicrosoft CEOであるSatya Nadella氏

創業から1999年までを「Gates時代」、Ballmer氏がCEOに就任した2000年から2014年2月までを「Ballmer時代」とすれば、今後数年間のMicrosoftは「Nadella時代」となる。とある関係者はNadella体制になってから「本社の風の通しが良くなった」と筆者に語った。

いずれにせよ、1981年から続いてきた歴史は2つの時代を終えた。新たに訪れた時代は我々がWindows、Officeの会社と認識してきたMicrosoftを大きく変えていくのだろう。

阿久津良和(Cactus)