猫は病気を持っていてもあまり症状を呈しません。健康でも定期的に吐いていたり、食欲にムラがある猫もいるため、症状がでていても飼い主さんが気付いてないことがあります。病気を早期にみつけることで進行を遅らせる、根治を目標に治療ができる病気がありますので、定期的な健康診断をおすすめしています。

(画像は本文と関係ありません)

若い猫は1年に1回、シニア猫(10歳以上)は半年に1回の健康診断

AAFP(米国猫学会)のガイドラインでは若い猫は1年に1回、シニア猫(10歳以上)は半年に1回の健康診断を推奨しています。人間と比べると頻度が高いように感じますが、猫は1年で人間の4倍のスピードで歳をとります。人医療で人間ドックの頻度の目安として用いられる計算式に以下のものがあります。

100÷年齢=受けるべき間隔(年)

例)50歳であれば100÷(50歳)=2(年)となり2年に一度受けましょう、ということになります。これを10歳の猫で当てはめてみましょう。ここでは計算を簡略化するために10歳の猫を人間換算50歳とします。

100÷50(人間年齢)=2(年)

そして人間の4倍のスピードで年を取るので2(年)÷4(倍)=0.5(年)となり、AAFPのガイドラインと同様、半年に1度という計算結果に辿り着きます。やはり病気を早期発見するにはこれぐらいの頻度で健康診断が必要なことがわかります。

項目

動物病院での健康診断は問診から始まり、体重測定、聴診、視診、触診を行います。口内炎、黄疸、乳腺腫瘍などはこの時点で見つかる事もあります。そして便検査、尿検査、血液検査、超音波検査、レントゲン検査からどの検査をするか相談して決めていきます。

人間ドックでは内視鏡、CT、MRIなどもありますが、猫でこれらの検査を行うには麻酔鎮静が必要になります。また現在のところ猫において有効な血中腫瘍マーカーはないため、がんの検査は画像診断が主になります。

BIG 8

BIG8とはオーストラリアの猫専門病院の獣医師リチャード先生が提唱している高齢猫に多い8つの病気です。私も健康診断の際はこのBIG8を意識して検査の必要性を説明しています。以下BIG8と、BIG8を検出する主な検査項目です。

・甲状腺機能亢進症(血中甲状腺ホルモン測定)
・慢性腎臓病(血液検査、尿検査)
・糖尿病(血液検査、尿検査)
・炎症性腸疾患(各検査結果と経過から総合的に診断)
・骨関節炎(レントゲン検査)
・高血圧症(血圧測定)
・心臓病(聴診、レントゲン検査、心臓超音波検査)
・がん(レントゲン検査、超音波検査)

※注意:括弧内の検査だけでは確定診断に至らない病気もあります。その場合は上記の検査で異常が見つかった際、追加検査が必要になります。

これをみると猫の主要な病気をチェックするためには、全身検査が必要な事が分かります。猫の負担、費用の面から検査項目を絞りたい場合は問診で気になるところを選んで相談しながら決めています。

具体例

①問診で「尿量が増えた気がする」と飼い主さんが気にしていることが分かりました。
②BIG8のうち多尿が出やすい病気を調べましょう。それは甲状腺機能亢進症、慢性腎臓病、糖尿病の3つです。
③これらの病気を調べるのに必要な検査は血液検査、尿検査、甲状腺ホルモン測定です。今回はこれらの検査をおこないましょう。

という流れになります。

猫の品種、体格によって項目を決める

猫の品種によってかかりやすい病気があります。それを品種好発性疾患と呼びます。例えばメインクーン、ラグドール、アメリカンショートヘアーは肥大型心筋症、ペルシャは多発性嚢胞腎、多発性肝嚢胞になりやすいという報告があります。

また猫の肥満は糖尿病のリスクを高めますし、「食欲があるのに痩せてきた」というのは典型的な甲状腺機能亢進症の症状です。品種や体格をみて獣医師から検査をすすめられることもあるでしょう。

どこまで検査したら良いの?

「どこまで検査したら良いか」。もちろん検査項目が多い方が病気を発見できますが、猫の負担と経済的な負担が気になります。どうしたら効果的な健康診断ができるでしょうか。

若齢でも発生率が高い病気もあり、代表的なものは泌尿器の病気です。猫下部尿路器疾患(FLUTD)は年齢に関係なく発生します。

尿検査はFLUTDだけでなく腎機能の低下、糖尿病なども診断するきっかけになるので猫において価値の高い検査といえるでしょう。自宅で尿を採るときは「ウロキャッチャー」というスポンジが先端についている採尿用のアイテムを飼い主さんにお渡ししています。これを使うと少量の尿でも採取できます。猫は人間が近づくとやめてしまうので尿を採取するのが結構大変です。また時間がたつと検査結果に影響することから、院内で採尿してしまうことが多いです。

便検査は自宅でした便をもっていけば猫の負担は0ですので、病院側も検査し易いです。特に外に出る事がある猫は寄生虫に感染することがあるので必ず受けましょう。よって私は、7歳以下の猫には、まず身体検査、そして基本的な血液検査、尿検査、便検査をおすすめしています。

その猫の基準を知っておく

その猫の基準を知る、ということも若齢時の健康診断のメリットです。

血液検査の参考基準値というのは健康な猫の検査結果を集めて統計的に計算して出した値で、95%の猫はこの範囲に入ります。しかしそれは5%の猫は健康であってもこの範囲から外れる事を意味します。その猫の基準値を知っておくことで将来病気になったときに診断の助けになります。

最初の健康診断は広く行う

いくつかの先天的な病気は、殆ど症状を出さない事があります、例えば先天性心膜横隔膜ヘルニアという病気は高齢になって初めて発見されることがあります。初めての健康診断は画像検査も含め広く検査し、問題なければ翌年以降検査項目を絞るということもできます。

費用

費用は各動物病院により異なります。健康診断パックとして通常の検査よりも安く設定している病院もあります。目安として

■身体検査+血液検査+尿検査+便検査:5,000~15,000円
上記の検査+レントゲン検査+超音波検査+甲状腺ホルモン測定:15,000~30,000円

くらいのお金がかかります。

まとめ

どんな健康診断が、その猫にとってベストなのかは各々の猫によって異なります。年齢、品種、性別、飼育環境、問診などから項目を決めていますが、必ず飼い主さんの希望や予算も伝えて下さい。その他に日頃気になることなどもお話しして下さい。効果的な健康診断には飼い主さんの協力は不可欠です。

また皮膚のしこりや、歯肉炎など、身体検査だけで見つかる病気もあります。あまり検査をしたくないという方も一度相談してみてはいかかでしょうか。

■著者プロフィール
山本宗伸
職業は獣医師。猫の病院「Syu Syu CAT Clinic」で副院長として診療にあたっています。医学的な部分はもちろん、それ以外の猫に関する疑問にもわかりやすくお答えします。猫にまつわる身近な謎を掘り下げる猫ブログ「nekopedia」も時々更新。