北海道電力は、経済産業大臣に家庭向け(規制部門)電気料金の大幅値上げを申請中である。申請が通れば、10月1日から一般家庭向け(規制部門)の電力料金は平均17.03%上昇する。同時に、申請が不要な企業向け(自由化部門)の料金も平均22.61%引き上げる予定だ。

北海道電力は、2013年9月に、一般家庭向けで平均7.73%、企業向けで平均11.00%の値上げを実施したばかりだ。なぜ、たて続けに大幅な料金引き上げを行わなければならないのか。

北海道電力は、電気料金の値上げを申請中(出典 : 北海道電力Webサイト)

同社説明によると、「泊発電所(原子力発電所)の長期間の停止に伴う火力燃料費の増加などにより、財務状況が大幅に悪化した」ことが、2013年9月に料金の引き上げを実施した理由である。その時点では、「2013年12月以降、泊発電所が順次稼動していく」と想定していた。

ところが、安全審査が長引き、いまだに再稼動は実現していない。同社見通しでは、「再稼動はもっとも早くても2015年11月以降」となる。コストカットを続けても赤字が続き、「このままでは債務超過も視野に入る危機的な財務状況となったことから、(500億円の優先株発行など)緊急的な純資産の回復策を実施」するとともに、再度の値上げ申請に至ったとの説明である。

この説明では、原発の再稼動が遅れていることが、値上げが必要な最大の理由とされている。原発再稼動さえ認められれば、燃料費が大幅に減少して損益が改善することが前提となっている。果たしてそうだろうか。

日本の原子力発電は、今、重大な岐路にさしかかっている。これまでは、「核燃料サイクル事業」が実現することを前提に、原発が推進されてきた。使用済み核燃料はリサイクルして何回も発電に使える「資源」となることが前提となっている。

ところが、その前提に狂いが生じている。使用済み燃料を再処理する「六ヶ所村再処理工場」も、使用済み燃料をリサイクルして何回も発電する予定だった「高速増殖炉もんじゅ」も、技術的な問題をかかえて停止したままだ。

高速増殖炉は技術上のハードルが大きく、アメリカ・イギリス・ドイツなどは事実上開発を断念している。核燃料サイクルを断念した国では、使用済み核燃料は単純に廃棄するしかない。処分後、安全性に問題なくなるまで、相当長期の管理が必要となる。

日本は、まだ核燃料サイクル事業を断念していない。したがって、使用済み核燃料は、「廃棄物」ではなく、「資源」と位置づけられている。原発を再稼動すると、電力会社の会計上の損益が改善すると考えられているのは、使用済み核燃料を「資源」と位置づけたまま原価計算を行うからだ。

もし日本が核燃料サイクル事業を断念すると、使用済み核燃料は、処分コストが大きい「廃棄物」に変わる。その場合、原発再稼動が、電力会社の損益を改善させるといえなくなる可能性もある。

執筆者プロフィール : 窪田 真之

楽天証券経済研究所 チーフ・ストラテジスト。日本証券アナリスト協会検定会員。米国CFA協会認定アナリスト。著書『超入門! 株式投資力トレーニング』(日本経済新聞出版社)など。1984年、慶應義塾大学経済学部卒業。日本株ファンドマネージャー歴25年。運用するファンドは、ベンチマークである東証株価指数を大幅に上回る運用実績を残し、敏腕ファンドマネージャーとして多くのメディア出演をこなしてきた。2014年2月から現職。長年のファンドマネージャーとしての実績を活かした企業分析やマーケット動向について、「3分でわかる! 今日の投資戦略」を毎営業日配信中。