幼い頃に誓った宇宙飛行士への夢をかなえるため、幾多の苦難を乗り越えて奮闘する兄弟を描いた『宇宙兄弟』。単行本の売り上げは累計1,400万部を突破、テレビアニメ化、実写映画化などのマルチメディア展開も成功を収めるなど、いまや国民的コミックにまで成長した。

『宇宙兄弟#0(ナンバーゼロ)』より

『宇宙兄弟#0』は、原作者の小山宙哉が雑誌連載を一時休載しても描きたかった物語で、自ら映画脚本に取り組んで書き下ろされたオリジナルストーリー。小山が描き下ろしたティザービジュアルには、少年時代のムッタとヒビトの姿が描かれ、「夢の続きを描くために、夢の原点を書きました。」というコピーが添えられている。本作では、漫画やTVシリーズでは語られなかった、初めて明かされる兄弟の"夢の原点"が描かれる。

そんな『宇宙兄弟』のアニメーション映画『宇宙兄弟#0(ナンバーゼロ)』が8月9日から公開されている。『宇宙兄弟』の前日譚を描いた本作はいかにして生み出されたのか。企画・プロデューサーを務める永井幸治氏に制作秘話を伺った。

永井幸治
1969年4月16日生まれ 兵庫県出身
音楽番組、バラエティ番組、情報番組のディレクターを経て、アニメプロデューサーに。『結界師』『ヤッターマン』『夢色パティシエール』『ベルゼバブ』『金田一少年の事件簿R』、そして『宇宙兄弟』と全国ネットのアニメを多数手がけている

――本作『宇宙兄弟#0(ナンバーゼロ)』は、原作の1話よりもさらに前のエピソードを描いています。なぜこの部分を描こうと思ったのでしょうか。

もともと、TVアニメをやっていた時から、いつかは映画でやりたいという気持ちはありました。ただ、スピンオフでサイドストーリーを作るのは、映画のために"作りました感"があって嫌だったんです。じゃあファンからすると、どこを描いてほしいのか。僕自身が『宇宙兄弟』の大ファンですから、ファンの視点で考えたんですね。そこで出てきたのが、原作の1話よりも前のエピソードだったんです。

――永井さん自身が1話の前日譚を見たいと思ったきっかけは?

原作の1話に「僕より先に月面を踏むはずだった人が、今この場にいないのは残念です」という台詞があります。なぜ日々人はあの会見の場でそんなことを言ったのか、僕自身、気になっていたんですよ。たしかに兄にいてほしいという気持ちはわかりますが、それだけじゃなく、何か強い思いがないとあそこであの台詞は出てこないと思うんですね。じゃあなぜ言ったのか? それを『ナンバーゼロ』では描きたかったんです。

――今回は脚本を原作者の小山さんが書かれています。

実は『ナンバーゼロ』は、構想から実現に至るまで2年かかっています。最初はスタッフでシナリオを書いていたのですが、これに1年以上苦戦しました。そこで最終的に、小山さんにお願いることにしたんです。小山さんもご自身が書かれているうちに思い入れも出てきて、今回の映画は特別なものになったようです。ただし、脚本家ではないので、苦労も多かったですね。

――例えばどんな苦労があったのでしょうか。

絵コンテが上がってから小山さんに見てもらうのですが、台詞の解釈にズレがあったり、脚本の意図と違っている部分などがありました。そういう時、小山さんは漫画から表情を引用したり、その場で描いたりして、絵で表現してくれるんですね。映画の作り方としてはかなり特殊かもしれませんが、正しい作り方なんてもともとないものだと私は思っています。最終的に良いものができればそれでいいわけですから。