松居さんと合原教授の出会い

松居さんが合原教授と出会ったのは4年前。合原教授の著書『社会を変える驚きの数学』(ウェッジ選書)を読み、自然界に起きている動的なもの、波や煙、風のそよぎなどを数式化して、解明する試みに感動したという。さっそく「コラボレーションしませんか」と打診し、2人のプロジェクトが始まった。

分岐図をドレスへ

「ロジスティック写像の分岐図を用いてドレスを作ってみませんか?」と合原教授からもちかけられた松居さん。確かに分岐図は、上から下に向かって裾広がりになっており、上部の曲線は、肩紐に見えなくもない。しかし、この図をもとにドレスを設計していくのは、試行錯誤の連続だった。分岐図のどの要素を3次元の人間の身体に合わせて立体化していくのか。図を何倍に引き伸ばしたらしたらいいのか、色はどうするか、そのまま体に当てはめると露出しすぎてしまう部分をどうカバーするか。「ものすごく仮説を立てて、頭の中の視覚野をぎゅうぎゅう動かして考えました」。

そして、2着のドレスが誕生した。1着はファッションショー用の黒いドレス、もう1着は一般的な女性用のオレンジ色のドレスである。「黒いドレスを作った後に、合原先生から、若いお嬢さんに似合う可愛い感じのドレスも作ってと言われたんです」。

色を考える過程では、合原教授が代表を務めるプロジェクトの技術員であり、アーティストでもある木本圭子さんがさまざまなアイデアを出した。まず、aの値ごとにどのような解が出る可能性があるかを2万回計算。そして、点の密集度によって、色彩を変化させた。

木本さんによって着色された分岐図

ドレスでは、密度の大きいところを黄色に、小さいところを赤に設定。密度によって、赤から黄色へ変わるので、中間の色であるオレンジが出ている。

ドレスの全体像

ドレスの肩紐の部分

点の密度の違いで色彩が変わる