Q:ではマイコンはそういう話としまして、Cortex-A、つまりアプリケーションプロセッサのマーケットですが、日本ではどう思われますか?
A:日本の産業構造を大きく分けると、垂直統合型のところは比較的自社でASICを起こされていますので、これから段々新しいクラスのARMがより使われるようになると考えています。ただ水平分業してしまったTabletとかPC、TVなんかは、外資系の半導体ベンダが持ってくるApplication Processorを買うだけですね。スマートフォンが良い例ですが、Qualcomm、Samsung、Appleしかないわけです。そこのマーケットが皆ARMですから、これはもう「あとは宜しくお願いいたします」というしかない(笑)。
台湾中国系のベンダは、まさしく今そこを取りに来ています。TVはもちろんの事、スマートフォン向けもです。そして元々は日本で盛んだったTVが、台湾や中国のメーカーにやられている。私としては悲しいわけで、逆に「何かできませんか」というのを現在、セットメーカーと考えたいと思っています。
Q:ただそこで問題になってくるのは、現在日本でASICというかSoCを作れない、という事ではないかと思うのですが。
A:そうです。作れない会社が多い訳ではなく、作る事はできるにも関わらずNRE(Non-Recurring Expense)、つまり初期コストが高すぎる点が問題だと思います。高すぎる事の原因は、もうすでに色々言われていますけれど、集積規模が上がったために、集積するものが増えてしまって、設計工数・IP・その他諸々が高くなっていく。
Q:IPのライセンス料とか(笑)
A:(笑)。10年前といえば、ASICは1億円あればお釣りが来た時代です。今は10億では足りないと言われてます。10年間で、10倍以上になったNREの償却ができない。反対に製品のバリエーションも、前ほど増やさないのが問題で、じゃあどうしますか? となった時に、1つはReusabilityを高めるしかない。今までは1年に2案件ASICを起こしていたところを、1年に1個か2年に1個になりました。そして今後もそれを使い続けますとことになる。そうなると、ますます大事なのがReusabilityというか、再利用性ですね。そこはキーポイントになると思います。その回答の1つは、もう少しウチのbig.LITTLEの様な技術を賢く使っていただけるようなビジネスモデルを啓蒙をしていきたいと思っています。つまり、4個ずつ(BigコアとLittleコアが)入っていても、1個しか使わない製品があってもいいわけです。それを同じ値段ではなく、廉価に提供できるビジネスモデルの様なものが提供できれば、低価格のコンデジから高価格の一眼まで1つのSoCで作れるよということになりますから。
Q:それはつまり、ARMの方でライセンスの問題をどうにかできるかも、と仰っている訳ですか?
A:可能性があると思います。昔は「そんな大きいもの入れて使うのはイヤだ」という話が多かったんですが、段々集積度が上がってきていますから、「そうじゃないでしょう」という状況になっている。今のプロセッサ見ると、GPUの方が大きいんです。だからプロセッサが4つ入っていても、1個しか使わないんだったら、その場合は…ということは出来るんじゃないかと思いますね。
Q:そういう話をすると、Sam(*3)が喜ぶんですよ。「そういうところこそZynqだよ」みたいな(笑)。現実問題AlteraにしてもXilinxにしても、そのマーケットを狙って居られる訳ですけど(笑)。
*3:FPGAベンダXilinxの日本法人であるザイリンクス社長のSam Rogan氏
A:そこも私ども、大いに関係している部分ではあります(笑)。実際Hardning CoreとしてCortex-A9が入ってますから。
Q:そして次世代プロセッサでは、当然Cortex-A9のままでは無理なので、32bitとしてもCortex-A12か15、あるいは64bitあたりが入ってくるのではないかと思いますが、そうなってきたときに日本でASICを作らなくなり、みんなFPGAを使うようになる、という可能性もありますよね。
A:確かにその可能性はあります。ただ、パワー効率考えるとどうでしょうかね。例えばデジカメの究極の姿がFPGAで済むかどうかというと、まだ50:50位じゃないですかね?
Q:ただ、最近はプロセスを微細化しても、前ほど低消費電力化の効果がなくなってきました。例えば以前ならプロセスが1世代進化すると、トランジスタ数が倍とか消費電力半減とかだったのが、最近はトランジスタ数が90%増とか、消費電力30%削減の様になってきました。
A:場合によっては微細化によってリークが増えるので、トータルの消費電力が増えたりするケースもあるようですね。
Q:そうすると、ラフに言ってFPGAはASICに比べて10倍効率が悪いと言われますが、段々その差が埋まって、次第にEvenになってくる。
A:そこの目については、決して私どもはおざなりにしたくないところです。ただそうは言っても、やはりそれとは別にASICでないといけないところは残ると思ってます。そこでもう1つは、Design CenterとかSilicon Aggregatorと呼んでいる、要するに設計ハウス、うちと関係するところでは台湾のGUC(Global Unichip)とかですが、そうしたところとの付き合いをもっと強化していく必要があるかな、と感じます。ここがもう1つの救世主になると思うんです。COT(Customer Owned Tool)をやるときには、GUCの様なベンダが無いとやはり困るようになってきてて、そこに対してのもう少しアクティブなパートナーシップを一緒に顧客と作っていきましょうといった取り組みをして行ければなと思っています。