Q:でもそんな風に、全部がARMになっちゃうと怖いですね(笑)

A:怖くない、と、思っていただきたいんですけどね(笑)。つまり私どもはIntel(*2)と違って、半導体の元の設計から製造まで全部やる訳ではないですから。ウチが、潰れても、困って欲しいですけど(笑)、寡占しても困らないようになっていると思うんです。つまり、ウチが何か悪い事をしようと思っても何も出来ないということです。

*2:内海氏はIntel出身

Q:Architecture Licenseという形で、インプリメントの差別化というのは存在し得るので、それはそれでもいいのかな、という気はしますが。

A:それも1つあります。それからもう1つ、同じRTLというかソースコードを使っても、Configurability、先ほど実装の仕方と言いましたが、あとは組み合わせですね。そこで差別化ができますから、そこが「寡占して怖い」かというと、怖くないということで(笑)。逆に、何処が一番気になられますか?

Q:いや、アーキテクチャとして全部ARMというのはやはりどうかな? という気はするんですね。今はx86もあります、Powerもあります、MIPSもあります、と、そうした色々なものが、アーキテクチャレベル、もしくは命令セットレベルで競合しているという事は必ずしも悪い事ではないと思うのです。

A:技術者にとっては面白いですよね。

Q:つまりARMが寡占するというのは、命令セットレベルでの寡占が起きちゃうという事になると思うのですが。それが本当に良いことかどうか、というのはちょっと即答しがたいですね。

A:仰る通りです。ウチはRISCでもなければ、もちろんCISCでもありません。けっして美しい命令セットではないのです(笑)。

Q:でも64bitになって大分良くなりましたよね。

A:作り直しましたから(笑)。そうは言っても、こう言ったら悪いのですが、Computer Scienceの立場から見ると普通の事をやっているだけです。たまたまその中でARM族というものが寡占することに対する、仰る部分の懸念というものは、体感的には十分判ります。そこで私のもう1つの仕事としては、局面を変えて、日本の産業構造というもの、あるいは半導体産業というものに対して、ARMは黒船ではありませんという啓蒙活動があるわけです。これは自動車業界の方々にも5年前から始めているのですが、同じ事を他の業種や経済産業省とか文部科学省の方々にも判って頂く必要があると感じてます。つまり、「黒船来た」と(笑)。

Q:(笑)

A:いや、実際のところ私も思うんですよ。

Q:ただ以前より抵抗は少ないなぁ、とは感じますね。というのも昔はアセンブラでバリバリ書いていたから、「新しいアーキテクチャはもういやだ」という話になるんですが、最近はCで書いてますから、その辺の抵抗も低い。

A:そうですね。AppleなんてPowerPCだったり、68Kだったり、x86だったり、で今度はARMです。このポータビリティはCのお蔭と言えますね。

Q:高級言語を使うと関係無くなりますから。

A:ですから、先ほど仰ったところのポイントを僕は逆説的に申しますとISA、命令セットアーキテクチャは、もうそれほど…

Q:重要じゃない?

A:私としては重要じゃないと言えないです。ただ脅威にはなりません、なぜなら保険はありますよ、という事は言えます。