最近、さまざまなメディアで「腸内細菌」という文字を見聞きしたことはないだろうか。近年の研究では、腸は「健康の源」であることが分かってきており、その健康のために重要な役割を果たしているのが腸内細菌なのだ。具体的にどのような働きをしているのか、腸内細菌の第一人者である理化学研究所の辨野義己特別招聘研究員に話を伺った。
腸内細菌の数は600兆個以上
私たちの腸内に棲(す)みついている腸内細菌は、実に600~1000兆個にも及ぶ。ヒトの体の細胞は約60兆個の細胞から成り立っていることを考えると、腸内細菌の規模に驚く人も多いだろう。ちなみに、大腸内に常在している腸内細菌の重さは重さは、約1.5kgにもなるとのこと。
腸内細菌には大きく分けて「善玉菌」「日和見菌」(中間菌)「悪玉菌」の3種類がある。善玉菌として有名なのは、乳製品などによく書かれている「乳酸菌」や「ビフィズス菌」だ。悪玉菌の代表格は、タンパク質を腐敗させて毒素を出す「ウェルシュ菌」。そして「日和見菌」は、「善玉菌」にも「悪玉菌」にもなりうる可能性を秘めている菌だ。
中立の「日和見菌」を味方につけろ
ここで注目してほしいのは「日和見菌」だ。この菌は、「善玉菌」と「悪玉菌」のうち、勢力が強いほうの味方をする性質がある。善玉菌優勢のいわゆる「腸内環境が良いとき」には、「日和見菌」は体に有利な働きをするが、悪玉菌優勢のときにはこぞって「悪玉菌」と一緒に"悪事"を働くというわけだ。
「大腸にすむ腸内細菌は病気の発生源でもあり、健康の発信源でもあるというわけです。善玉菌、悪玉菌、日和見菌の3種類のバランスをコントロールすることが大切になってきますが、口から食べたものが腸に届くわけですから、私たちの体の中で一番コントロールできるのは、大腸の腸内細菌というわけです」(辨野特別招聘研究員)
「21世紀は腸の時代」
「善玉菌」「日和見菌」「悪玉菌」は通常、2対7対1の割合で腸内に常駐しているという。普通に過ごしていれば常に「腸内環境がよい」状態になるわけだが、肉食中心の生活をしていると「悪玉菌」が優勢になってしまう。
「悪玉菌」が増えると、「発がん物質」や「発がん促進物質」も増えることになる。それを防ぐためにも、「善玉菌」を多くすること、すなわちヨーグルトや乳酸菌飲料などの乳製品を摂取することが大切なのだ。
辨野特別招聘研究員は、21世紀は腸の健康を考えることが必要な「腸の時代」だという。
「21世紀になって腸内細菌の全体像が見えてきた。腸内細菌は現代医療のトップランナーの位置にある。腸内細菌抜きにしては、健康や病気について語れないのが今の時代です」
自分の体の免疫力は腸内細菌によって決まってくる。そして、その腸内細菌は毎日の食生活で変わってくる。これを機に、日ごろの食事を見直してみてはいかがだろうか。
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筆者プロフィール : 辨野 義己(べんの よしみ)
理化学研究所イノベーション推進センター辨野特別研究室特別招聘研究員。専門領域は腸内環境学。腸内細菌のDNA解析によって新しい最近を多数発見。腸内細菌と病気との関係を掘り下げて研究するとともに、ビフィズス菌や乳酸菌の健康効果をメディアなどで発信している。
著書「一生医者いらずの菌活のはじめ方」
・定価: 1,320円(税別)
・発行: 株式会社マイナビ
・200ページ