サンディスクが日本国内の販売体制を大幅に強化した。主にはB to B市場向けの体制強化となるが、個人向けのリテール製品も拡充される予定だ。その背景と業界状況を、サンディスクのコマーシャル セールス&サポート シニアディレクター兼カントリーマネージャー、加藤誠氏にうかがった。

サンディスクの加藤氏

―― 今回の施策は「販売チャネルを拡大した」ということでしょうか?

加藤氏「主として組み込み市場向けの販売チャネルを拡充しました。具体的には、販売代理店さんを増やして、4社さんと新たに販売代理店契約を結びました。」

―― 契約形態を変更、強化した背景を教えてください。

加藤氏「サンディスクでは、いわゆるOEM向けの市場をコマーシャルビジネスチャネル(CBC)と呼んでいます。世界的な方針として、販売チャネルを経由したビジネスを拡大することになりました。日本で契約形態を変更したのも、グローバルな取り組みの一環です。

今までの契約では販売できる製品に制約があったのですが、新しい契約では事実上、サンディスクが持つすべての製品を扱えるようになっています。従来の組み込み製品ではeMMCが主力でしたが、今後はエンタープライズとクライアントのSSDも販売を強化する方針で、新しい代理店さんに入っていただきました。

これらの施策によって、今後の3年間で日本市場の売上を倍にする目標を掲げています。組み込み市場の場合、お客様の設計段階で採用を決めていただくと、大量生産に入る段階で売り上げが伸びるので、まずは設計段階での採用を増やせるように考えています。」

―― 市場の変化については、今現在どのようにお考えでしょうか?

加藤氏「従来、サンディスクという会社は、NANDフラッシュベンダーやメモリカードベンダーというイメージが強かったかと思います。今後は、トータル的なストレージカンパニーへと変わっていきます。

大きく表には出ませんが、我々の製品は主に組み込み用としてのeMMCが主流でした。ところが近年は、エンタープライズ向けSSDやクライアント向けSSDの販売が伸びています。

サンディスクのグローバル売上で見ると、2013年にSSDが20%、eMMCが27%、残りがメモリカード製品という構成です。これが2017年末の予測では、SSDが40%、eMMCが22%、残りがメモリカード製品と、SSDが倍増する見込みです。その背景にあるのが、『データの爆発』と、エンタープライズ領域を含めた『オールSSD化』という市場の流れです。

現在、ストレージの中心はHDDですが、容量もコストパフォーマンスも、SSDがHDDに迫ってきています。現在のHDD市場とSSD市場を容量面で比較すると、SSD市場は1%にも満たないんですね。この比率が10%になると考えただけでも、膨大なSSDの潜在ニーズがあります。」

サンディスクのエンタープライズ向けSSD製品。写真左はミッションクリティカルなシステムに適した高耐久、高信頼性の「Lightning Ultra Gen. II SSD」。インタフェースは12Gbit/秒のSAS(Serial Attached SCSI)。写真右は最大4TBの容量を実現し、HDDからの置き換えも想定した「Optimus MAX SSD」。インタフェースは6Gbit/秒のSAS

加藤氏「例えばデータセンタープロバイダーですと、すでにSSDの導入を積極的に進めているベンダーさんも増えていますし、近い将来『HDDからSSDへのドミノ倒し』(編注:HDDからSSDへの切り替えが一気に進むこと)が起きると確信しています。これは我々だけの視点ではなく、お客様からも同様のお話をうかがっています。

また、システムとしての総合パフォーマンスには、I/O性能が大きなウェイトを占めると考えます。ストレージのI/O性能を引き上げるSSDは、魅力的な製品と言えるでしょう。そのために必要な技術に関しても、内部開発やM&Aによって取り組んでいます。

1つの例としてサンディスクでは2.5インチ4TB SSD『Optimus MAX 4TB SAS SSD』を発表済みです。大容量、そしてエンタープライズ向けのSSDとして、MLC NANDフラッシュの耐久性を向上させる技術『Guardian Technology』がなければ、開発できなかった製品でしょう。」

―― 話は変わりますが、コンシューマ目線でおうかがいします。ズバリ、秋葉原でサンディスクのSSD製品を目にする機会は増えますか?

加藤氏「サンディスクのSSD製品は、どちらかというとホワイトボックスとしての製品組み込みが主流です。PC DIYという市場に関しては、やや出遅れているのは否めません。今回、代理店契約したケミックさんは、秋葉原でシーゲイトさんやHGSTさんのHDDなどを扱っていますので、ケミックさんを通じて製品販売が期待できます。

一般小売用としてのSSDも、先日(編注:8月4日)日本でもExtreme Pro SSDを9月上旬から出荷開始することを発表しています。高いパフォーマンスが見込まれていますので、ご期待いただいて良いと思います。」

2.5インチSSD「Extreme Pro SSD」。ラインナップは、240GB/480GB/960GBの3モデル。最大リードは550MB/秒、最大ライトは520MB/秒。日本でも9月上旬から発売される予定

―― OEMという観点では、メーカー製PCの中でサンディスクのSSDを搭載しているモデルは少ないのが現状です。大手PCメーカーからも期待が寄せられていると思いますが、いかがでしょう。

加藤氏「日本のPCメーカーさんはコストに対する目が特に厳しく、TLC NANDフラッシュのSSDを投入して欲しいというニーズがあります(編注:TLC NANDフラッシュは1チップ当たりの容量が大きく低コスト)。サンディスクとしても、なるべく早い段階でコストパフォーマンスに優れるTLC NANDフラッシュを用いたSSDを市場に投入する予定です。

エンタープライズ領域においては、TLC NANDフラッシュのSSDはまだ機が熟していません。このあたりは、パフォーマンスとプライス、エンデュランス(編注:SSDの耐久性)のバランスが重要になります。例えば、3年間利用するシステムに、5年や10年の耐久性を持つSSDを使用する必要性はありません。一般論で言えば、TLC NANDフラッシュは書換え寿命という点で不利ですが、システムとして利用する場合は、設計寿命に合わせた製品を選択すべきです。TLC NANDフラッシュのSSDはコスト面でも有利になりますので、今後採用されていく可能性は充分にあります。

さらに一層のパフォーマンス向上を図るには、SATAやSASではインタフェースの理論速度に限界があり、PCI Expressに真剣に取り組む必要があります。実は、サンディスクはPCI Express周りでは出遅れておりましたが、先ごろFusion-IO社を買収したことで、この遅れを取り戻せると思っています。

こうした研究開発や、近い将来のSSD需要拡大に応えるために、東芝さんとサンディスクが共同で出資している四日市工場の一部を建て替えます。従来のいわゆる2D NANDフラッシュから、3D NANDフラッシュへの切り替えも含みます。サンディスクは、将来に対して必要な技術や製造設備に十分な投資をしており、こうした点にも興味を持っていただけたら嬉しいですね。」