8月5日、日本記者クラブで三菱ケミカルホールディングス・小林喜光社長の会見が開かれました。グローバリゼーションが求められる日本社会において、小林喜光社長が進める『KAITEKI』経営戦略には、これからの時代を見据えるメッセージが詰まっています。その詳細をご紹介したいと思います。
『KAITEKI』経営の『KAITEKI』とは?
小林社長の進める『KAITEKI』経営の『KAITEKI』とは、人にとっての心地よさに加え、社会にとっての快適さや地球の持続可能性も考慮した概念のことを言います。
この『KAITEKI』という言葉を生んだ小林社長は、
「『KAITEKI』経営は、サステナビリティ(資源・環境)、ヘルス(健康)、コンフォート(快適)をキーワードとし、次の3つの価値軸から成り立っている」
と解説。
「3つの価値軸とは、(1)ROE(株主資本利益率)など経済的な価値を高めるMOE(マネジメント・オブ・エコノミクス)、(2)効率的、継続的に技術革新を起こすためのMOT(マネジメント・オブ・テクノロジー)、(3)人や社会、地球のサステナビリティの向上を目指すMOS(マネジメント・オブ・サステナビリティ)。
これら3つの価値軸に時間軸を加えることで『KAITEKI』経営は成立する。
3つ目のMOSは独自に生み出した指標だ。サステナビリティ(持続可能性)を据えることで、目に見えない価値を創造し、地球温暖化や高齢化社会、環境問題などの課題を解決に導くことにつながる。
この『KAITEKI』経営を追求するなかで、三菱ケミカルグループは再編を重ねてきた。2007年10月、傘下の三菱ウェルファーマと田辺製薬の合併により、「田辺三菱製薬」が発足。2008年4月、グループ内の機能材料事業を「三菱樹脂」に統合。2010年4月、「三菱レイヨン」を完全子会社化。2014年4月、ヘルスケア関連の新会社「生命科学インスティテュートを」を設立。そして今年、2014年5月、産業ガス大手の「大陽日酸」を約1000億円で年内に買収すると正式発表した。買収により、米シェールガス関連事業に参入する。世界の化学大手と戦うことを視野に入れている」
と述べました。
「国や社会や地球環境など、大きな視野で捉える姿勢も大切」
また、経済財政諮問会議の民間議員でもある小林社長は、政府の成長戦略における企業政策の方向性について、
「欧米のCEOが一番重視しているのはテクノロジーだが、今の日本企業のトップたちはグローバリゼーションが重要だと口を揃える。そうしたなかで、ROEにおいてもグローバル水準を求める時代になってきた。確かに日本企業のROEは欧米企業と比べれば低すぎるため、改善の余地はあるだろう。
ただ、企業にとって必要なことがそれだけかと言うとそれは違う。特に科学の分野などには、中・長期的な視点が必要だ。人や社会の快適さや地球環境の持続可能性、国のインフラを考える社会性が求められる。実際、欧米にも利ザヤだけを求めず、中・長期的な視点を持つ投資家も増えてきている。今年開催された株主総会で、私自身も自社の他に、別分野の企業の株主総会に出席する機会が何度かあったが、投資家にもそれぞれタイプがある。
配当や株主還元を強く求める投資家が多い企業もあれば、地球環境についてなど、長期的、将来的な質問が多く出る企業もある。企業価値の判断基準は一つではないことの現れだろう」
と述べたのです。
昨今のROE重視の経営強化体制に疑問をなげかけるかのように小林社長は、
「会社経営というのは、目先のROEを追求することだけにこだわらず、国や社会や地球環境など、大きな視野で捉える姿勢も大切だ」
と強調しました。
三菱ケミカルホールディングスは現在、27%の大陽日酸への出資比率を、年内には51%を上限に引き上げ、過半数の株式を取得するTOB(株式公開買い付け)を実施する予定。買い付け価格は1株1030円、買い付けの終了は2014年12月末までとしています。
尚、買収後も大陽日酸は上場を維持する予定です。
シェール革命のなかで、産業ガス分野を取り込んだ世界的に競争力のある化学品を生産し、海外大手の化学メーカーに対抗する狙いです。
執筆者プロフィール : 鈴木 ともみ(すずき ともみ)
経済キャスター・ファィナンシャルプランナー・DC(確定拠出年金)プランナー。著書『デフレ脳からインフレ脳へ』(集英社刊)。東証アローズからの株式実況中継番組『東京マーケットワイド』(東京MX・三重テレビ・ストックボイス)キャスター。中央大学経済学部国際経済学科を卒業後、現・ラジオNIKKEIに入社。経済番組ディレクター(民間放送連盟賞受賞番組を担当)、記者を務めた他、映画情報番組のディレクター、パーソナリティを担当、その後経済キャスターとして独立。企業経営者、マーケット関係者、ハリウッドスターを始め映画俳優、監督などへの取材は2,000人を超える。現在、テレビやラジオへの出演、雑誌やWebサイトでの連載執筆の他、大学や日本FP協会認定講座にてゲストスピーカー・講師を務める。