ソフトバンク+Sprint連合による米T-Mobile USAの320億ドルでの買収合意に向けた動きが加速しているといわれるが、報道によれば新たな買い手としてフランスのIliadが150億ドルで同社株の56.6%の買収提案を提示しており、潜在的なライバルが出現した形となった。
同件はWall Street Journalなどが7月31日(米国時間)に報じている。Bloombergによれば、Iliadの提案額は1株あたり33ドルで全株式の56.6%取得を目指しているようだが、親会社のDeutsche Telekomは前回のAT&Tへの売却の件から判断して全持ち株の売却を計画しており、さらにはソフトバンク+Sprint連合の1株あたり40ドルで全株取得という提案には遠く及ばず、少なくともIliadが1株あたり37ドルの水準まで買収提案を引き上げるのが最低条件と判断しているようだ。
なお、今年1月にはDeutsche TelekomがT-Mobile USAにおける同社の持ち株67%をドイツ名義の持ち株会社からオランダ名義の持ち株会社に移したことが報じられており、これが同社によるT-Mobile USA売却観測につながっていると同時に、相手先が取得すべき株式数の目標値になっていると考えられる。そのため、Iliadが何の判断基準をもって「1株あたり33ドルで全株式の56.6%取得」という提案を出したのかは理解できない部分が大きい。なおT-Mobile USAの7月31日終了時点での株価は32.94ドルで、33ドルという提案額を若干下回る程度。この日はダウ工業平均指数(DJIA)が300ドル超下落するなどニューヨーク株式市場が全体に大幅に下落傾向にあったが、T-Mobile USA株価(TMUS)は前日比2ドル(6.46%)上昇となっている。これだけを見ても、現時点のIliadの提案はほぼ意味をなさないと考えられる。
Iliadはフランスを拠点にする実業家で億万長者のXavier Niel氏が1999年に設立した企業で、ISPならびに携帯電話サービスを提供する。Niel氏自身はフランス版キャプテンシステムやL-Modeとも呼べるMinitelの時代から通信事業を展開しており、株式買収などを経て新聞社の「Le Monde」やモナコの通信事業者「Monaco Telecom」のオーナー権を握っていることが知られている。また最近ではKima Venturesを通じたベンチャーキャピタル事業も行っており、フランス産業界では著名なビジネスマンの1人として重要なポジションを占めている。同業者による海外進出事業の1つという位置付けとみられるが、少なくとも未発表段階でSprintとT-Mobile USAが合意している買収水準を満たしていないなか、今後どのような動きを見せるのかに注目したい。
(記事提供: AndroWire編集部)