アドビ システムズは、6月19日に「Adobe Creative Cloud」と連携するモバイルアプリ群のリリースとともに、同社としては初めてのハードウェアである「Adobe Ink & Slide」(デジタルペン&定規のセット)を発表し、クリエイターらの話題をさらった。

今回は、こうしたハードウェアやモバイルアプリの発表に至るまでの経緯やお勧めの利用法などについて、米国で先行発売されている同製品を特別に見せてもらいながら、同社のCreative Cloudエバンジェリスト・仲尾毅氏にお話を伺った。

「Adobe Ink & Slide」は手描きのラフをデジタル化する試み

米国で先行発売されている「Adobe Ink & Slide」のパッケージ。単体では販売されず、ペン&定規のセット販売となる

Adobe Ink & Slideを手にするアドビ システムズCreative Cloudエバンジェリスト・仲尾毅氏

インタビューの冒頭で、仲尾氏は、このたび新たにモバイルアプリとAdobe Ink & Slideが誕生した経緯について言及した。「多くのクリエイターは常時スケッチブックを持ち歩き、ドラフトや下絵などを描いている」という現状に目を向け、「こうしたワークフローの始まりの部分と本格的な作業との間のプロセスを、より身近なスマートフォンやiPadを用いてシームレスにつなぐことができないか」という提案により、これらのデバイスが生まれたのだと説明した。Adobe Ink & Slideは現在のところ米国のみの発売だが、年内には日本国内での発売が予定されている(価格は未定)。

まずはデジタルペン「Adobe Ink」について、実物を目の前に、そのスペックについて解説が行われた。同製品は、ペンタブレットやスタイラスペンのメーカーとして実績のあるアドニットとの協業によるもの。今までのiPad向けスタイラスペンは、iPadの仕様の問題により先が太いものがほとんどだったが、同社の技術によって先の細いスタイラスペンを実現。スペックとしては、PC向けペンタブレットのハイエンド製品と同等の2048段階の筆圧感知に対応するほか、さまざまな機能が使える拡張ボタン、充電中などに光る「コミュニケーションLED」などを搭載している。

続いて登場したデジタル定規「Adobe Slide」はまったく新しいジャンルのハードウェアで、わずか20グラムの軽量な本体に用意されたボタンがひとつだけという、構造のシンプルさをアピールした。

Adobe Inkは、持ちやすく、すべりにくく、疲れない形状。1本のInkと同時にペアリングできるiPadは1台のみ

「Adobe Slide」はわずか19.6グラムの本体に拡張ボタンが1つ搭載されただけのシンプルな構造。ボタンを押すとアプリ上に定規を切り替えるためのメニューが表示される

トレース作業も可能なスケッチブックアプリ「Adobe Sketch」

続いて、今回登場した3本の新しいモバイルアプリを、実際に「Adobe Ink & Slide」とiPadを用いて、デモを交えながら紹介してくれた。まずは、デジタルスケッチブックアプリ「Adobe Sketch」。アドビが展開するクリエイター向けSNS「Behance」と連動し、完成した絵だけでなくそのプロセスも投稿できる。

作品は「プロジェクト」という単位で作成し、鉛筆やペン、筆、マーカー、消しゴム、カラーパレットといった、イラスト描画ツールではおなじみのツールを使って絵を描くことができる。また、iPad内蔵カメラで撮影した画像などを読み込んで透明度を変更し、その上からペンツールでなぞってトレースを行うことができる機能も用意されている。デジタルペン「Adobe Ink」を使ったデモでは、同製品の特徴である細いペン先を生かした細かな描画をはじめ、水彩画のような透過性や色のブレンドの再現性、筆圧感知などの利点を強調した。

「Adobe Sketch」は、Adobe Inkの細いペン先を活かした細かい描画が可能。紙の質感や水彩画のような色の混じり具合が忠実に再現される

「Adobe Sketch」には、読み込んだ下絵をトレースする機能も用意されている。iPadの内蔵カメラを使ってその場で読み込んだ写真のトレースも可能

また、同アプリでの描画中、2本指で左右にスワイプすることで、1ストロークごとにアンドゥ(取り消し)/リドゥ(やり直し)が行えることを実演。さらにユニークな機能として、3本指でホールド(指を画面に置いたままにする)し、上部にバーを表示した状態でスワイプすることで、それまでのすべてのストロークを時系列に沿ってアニメーション形式で閲覧しながら、やり直したいポイントまで素早く戻れる機能を紹介。こうした機能は、同アプリが書き始めからそれまでの作業をすべて記録していることで実現しているという。このほか、iPadの画面に乗せたままAdobe Inkで描いても誤入力しない「パームリジェクション」機能や、持ち方の設定(6つのプリセットを用意)など、それぞれのユーザーが好みの操作性を実現できるカスタマイズの柔軟性についても説明した。