財務省が発表した貿易統計(速報、通関ベース)によると、2014年上半期の貿易収支は▲7兆5,984億円と、半期ベースで過去最大の赤字額となった。この数字を見て、日本製品の競争力がなくなったと嘆く人もいるが、それは早計だ。

日本は2010年まで30年連続で貿易黒字を計上し続けていた。2011年に31年ぶりの貿易赤字に転落したのは、東日本大震災で原子力発電所が停止し、火力発電の燃料輸入が増えたことが最大の原因である。

原発が停止して電力需給が逼迫する中、中東からあわててLNGを緊急輸入したために、世界一割高なガスを買う破目になった。日本がスポット輸入しているLNGは100万BTU(熱量単位)当たり14~16ドルである。アメリカのシェールガス(天然ガス)が100万BTU当たり4-6ドルであることを考えると、日本は非常に高価なLNGを買わされていることになる。2018年くらいまで、高値で契約したLNGの輸入を続けなければならないと考えられる。

(出所:財務省)

日本の貿易赤字は2012年以降、拡大が続いている。大幅な円安が進んだことが赤字拡大の原因となっている。原油やLNGの価格はドル建てなので、円安が進むことによって円に換算した輸入代金は拡大する。一方、円安にもかかわらず輸出の伸びが鈍いために、貿易赤字が拡大しつつある。

ただし、日本の貿易構造が、輸出主導型であるのは今も変わらない。相変わらず、原燃料を輸入し完成品を輸出する貿易構造になっている。現在、鉱物性資源(原油・LNGなど)の赤字が大きいことが、貿易収支が赤字となる最大の要因である。

2014年上半期の輸出入の品目別構成比

(出所:財務省)

ところで、円安にもかかわらず、輸出の伸びが鈍い理由は2つある。1つは、日本の輸出産業が海外現地生産を拡大してきた効果だ。もう1つは、中国やアジアの新興国の景気が停滞しているため、日本のアジア向け輸出が伸び悩んでいることだ。

輸出産業が海外現地生産を増やしてきたのは、日本製品(海外現地生産されたものを含む)の競争力を高めるためだ。世界中に、日本車が普及しているのは、日本の自動車メーカーが海外現地生産を進めた効果による。

1980年代にはアメリカで日本車や日本の電気製品の販売が増えた際、激しい日米貿易摩擦が起こった。日本製品がアメリカの雇用を奪っているとして、憎悪の対象となった。今、アメリカでの日本車販売シェアは当時よりも高いが、深刻な摩擦は起こらなくなった。日本メーカーが北米での現地生産を高め、現地の雇用増加に貢献しているからだ。

ソニーやシャープなどが生産する民生電機製品で、日本の競争力が低下しているのは事実であるが、自動車や機械・ロボット産業では競争力は低下していない。海外現地生産によって、技術力に加え、コスト競争力も確保し、より万全な体制に入りつつあるといえる。

日本を追いかけて強い製造業を育てた韓国は、まだ輸出主導で、海外現地生産があまりできていない。そのために、近年進んだ韓国ウォン高によって、輸出企業の業績が低迷している。日本のように海外現地生産を徹底するには、まだ時間がかかる。

さて、それでは、日本の貿易赤字を減らすことはできないのか。私は、日本の貿易赤字は数年かけて減少し、いずれ貿易黒字に復活すると予想している。

日本は今、世界一高い燃料を輸入しているが、2018年頃には米国から安いシェールガスの輸入が始まる見込みだ。サハリン(ロシア)からも安いガスを輸入する可能性が検討されている。もしパイプラインでの輸入が実現すれば、日本のガス購入単価は大きく減少する。資源の輸入を特定の国に依存することなく、幅広くたくさんの国から輸入することが、エネルギーの安定確保に貢献する。

技術的にむずかしくて、現時点では実現のメドがたっていないが、日本近海に眠るメタンハイドレートも活用できれば、日本のエネルギーコスト低下に寄与する。

また、日本の製造業の空洞化が話題になっているが、日本から工場がすべてなくなることはあり得ない。日本の製造業は、付加価値の低い製品から順に海外生産へ移管してきている。最先端のロボットや、製造に高度の技術(すりあわせ技術など)を要する製品は、日本でしか作れない。次世代自動車や次世代ロボットの開発・生産では、日本が世界をリードしていくことになると考えている。

執筆者プロフィール : 窪田 真之

楽天証券経済研究所 チーフ・ストラテジスト。日本証券アナリスト協会検定会員。米国CFA協会認定アナリスト。著書『超入門! 株式投資力トレーニング』(日本経済新聞出版社)など。1984年、慶應義塾大学経済学部卒業。日本株ファンドマネージャー歴25年。運用するファンドは、ベンチマークである東証株価指数を大幅に上回る運用実績を残し、敏腕ファンドマネージャーとして多くのメディア出演をこなしてきた。2014年2月から現職。長年のファンドマネージャーとしての実績を活かした企業分析やマーケット動向について、「3分でわかる! 今日の投資戦略」を毎営業日配信中。