梅雨の終わりとともに、全20作がそろった夏ドラマ。かつて、「イベントや旅行が多い夏はドラマ不作の季節」と言われていたが、昨年の『半沢直樹』大ブームで、その説が見事に覆された。
今年は1月からとにかく刑事ドラマが多かったが、今クールは実にバラエティ豊か。若者群像劇、学園モノ、大人の恋愛、ホームドラマ、オムニバスなど、多彩なジャンルがそろった。
夏ドラマの主な傾向は、[1]続編モノの明暗がくっきり [2]"おっさん旋風"再び [3]フジは"熱さ"の一点勝負 [4]ドラマ界のレジェンドが集合 の4つ。
傾向[1] 続編モノの明暗がくっきり
今期は13年ぶりとなる『HERO』『金田一少年の事件簿N』、9作目の『警視庁捜査一課9係』、2作目の『ペテロの葬列』『GTO』『信長のシェフ』『匿名探偵』と、全ドラマの約3分の1を続編が占めている。また、『若者たち2014』も1966年に放送された作品のリメイクだ。
制作側の思惑は、「固定ファンに加えて、新規ファンも開拓」なのだが、現実は厳しい。新規どころか愛着を持つ固定ファンからも、「改悪」「賞味期限切れ」などの厳しい声が目立ち、大成功は『HERO』のみで、その他は軒並み大苦戦。特に前作の評判・視聴率が良かった『信長のシェフ』は、深夜から20時代の枠移動が裏目に出てしまった。
傾向[2]"おっさん旋風"再び
今年冬、『三匹のおっさん』『隠蔽捜査』『緊急取調室』などがそろい"おっさん旋風"が起きたのは記憶に新しいところ。春をはさんで、再び夏におっさんが主役のドラマがそろった。
その代表格は、柳葉敏郎が学ラン姿でエールを送る『あすなろ三三七拍子』と、週替わりで田村正和や役所広司ら名優が競演する『おやじの背中』。ベテランならではの役作りはもちろん、「目尻のシワ」「物言わぬ背中」などの奥深い演技が楽しめる。
その他、『警視庁捜査一課9係』の渡瀬恒彦は69歳、『ラスト・ドクター』の寺脇康文は52歳、『匿名探偵』の高橋克典は49歳。おっさんたちの笑顔、叫び、汗、涙……今回の試みが成功したら来年以降は、おっさんが夏ドラマの風物詩になるかもしれない。
傾向[3]フジは"熱さ"の一点勝負
このところ視聴率での苦戦が続くフジテレビが思い切った勝負に出た。今クールは、「全話30%超の『HERO』続編」を筆頭に、「妻夫木聡、瑛太、満島ひかりら豪華キャスト共演」、「上戸彩が不倫妻に挑戦」など、メディアに取り上げられやすいトピックスが目白押しなのだ。
しかし、よく考えてみると、全ての作品が"熱さ"というキーワードにたどり着く。『GTO』の鬼塚、『あすなろ三三七拍子』の応援団、『水球ヤンキース』の水球部は言うまでもないし、『若者たち2014』は熱い兄弟ゲンカが絶えず、『HERO』の久利生も何気に熱いキャラで、『昼顔』も禁断の恋に燃え上がる男女を描いたものだ。
はたして、暑い夏に熱いキャラは好まれるのか? 「クール」と言われる若い世代を取り込めなければ、収穫のない寂しい秋が待っている。
傾向[4]ドラマ界のレジェンドが集合
ドラマ界が隆盛を極めた80~90年代に、第一線で活躍していたスタッフが今クールのドラマに集結している。
『おやじの背中』のプロデューサーである63歳の八木康夫は、『うちの子にかぎって…』『パパはニュースキャスター』『魔女の条件』『オヤジィ』などのヒットを連発したTBSのレジェンド。また、彼の呼びかけによって、80歳の山田太一、79歳の倉本聰、76歳の鎌田敏夫、68歳の池端俊策ら脚本家のレジェンドが集まったのも特筆すべきことだ。
『若者たち2014』の演出を手がける杉田成道は、『北の国から』『ライスカレー』『並木家の人々』を手がけたほか、現在も日本映画テレビプロデューサー協会の会長を務める重鎮。連ドラの演出は21年ぶりであり、70歳という年齢を考えると貴重な機会となる。今回のドラマに主演級俳優が集まったのは、「杉田監督と仕事がしてみたい」という思いによるものだろう。
また、『同窓生』の原作者・柴門ふみも、『東京ラブストーリー』『あすなろ白書』『同・級・生』ら大ヒットを連発した恋愛ドラマのレジェンドと言える。
これらの傾向を踏まえたオススメは、監督・脚本を手がける福田雄一の情熱がほとばしり、柳楽優弥の好演が光る『アオイホノオ』。「変える、変えない」が整理された続編モノのお手本と言える『HERO』も、誰もが楽しめるエンタメに仕上がった。この2作品は甲乙つけがたく好みが分かれるところだが、初回の時点では実験的なトライが多かった前者を推したい。
さらに、引き算の美学があり、往年の『東芝日曜劇場』を思わせる『おやじの背中』。怖さと哀しさ、その中での美しさなど、深さのある映像に引き込まれる『家族狩り』。タイトルと内容は一致していないが、俳優の技量を引き出している『若者たち2014』と続く。
一方、裏オススメは、魅力である「熱さ」が失われ、新鮮味も感じない『GTO』。既視感の強い設定と展開が続く『金田一少年の事件簿N』。"変人監察医"というネタかぶりで苦しい『ラスト・ドクター』。過去作との差別化でスタッフが迷走気味の『匿名探偵』。枠移動で時代劇としての物足りなさが目立ってしまった『信長のシェフ』。いずれも続編や事件モノで「置きにいった」印象が強く、脚本・演出での思い切ったトライが見たいところ。巻き返しに期待したい。
【おすすめベスト5】
No.1 アオイホノオ (テレ東 金曜24:00~)
No.2 HERO (フジ 月曜21:00~)
No.3 おやじの背中 (TBS 日曜21:00~)
No.4 家族狩り (TBS 金曜22:00~)
No.5 若者たち2014 (フジ 水曜22:00~)
【おすすめワースト5】
No.1 GTO (フジ 火曜22:00~)
No.2 金田一少年の事件簿N (日テレ 土曜21:00~)
No.3 ラスト・ドクター (テレ東 金曜20:00~)
No.4 匿名探偵 (テレ朝 金曜23時)
No.5 信長のシェフ (テレ朝 木曜20時)
■木村隆志
コラムニスト、芸能・テレビ・ドラマ評論家、タレントインタビュアー。1日のテレビ視聴は20時間(同時視聴含む)を超え、ドラマも毎クール全作品を視聴する重度のウォッチャー。雑誌やウェブにコラムを提供するほか、取材歴1000人超のタレント専門インタビュアーでもある。著書は『トップ・インタビュアーの聴き技84』など。