7月15日・16日、ソフトバンクグループの法人向けイベント『SoftBank World 2014』が都内で開催。多数の出展社による特別講演やセッションが行われたり、サービス・製品の展示スペースが設けられた。ITジャーナリスト 松村太郎氏による特別講演では、「米国に住んで体験するスマートライフの現在と未来」と題して、松村氏が現在のスマートライフ"の流れとその課題についてスピーチを行った。

今回は、キャスタリア/コードアカデミー高等学校の肩書きを持って登壇した松村太郎氏

サンフランシスコの現状

松村氏が住むサンフランシスコでは現在、テクノロジー系企業が本社を移動してきたり、市内で起業することが相次いでいるという。Apple、Google、Facebookといった企業のお膝元でもあり、「Uber」「Pintarest」「OpenTable」「Square」といったサービスが作られ、テクノロジーがIT系の中だけでなく、街中で使われ、問題が解決されるようになってきていると、と今の流れを俯瞰した。

モバイルサービスは都市で成長する

しかし、米国がスマートライフを実現しているかというと、そうも言えない。松村氏が米国に移った時に契約したDSL回線は最大6MbpsでiPhoneのLTEよりも遅い。スーパーのレシートはバーコードクーポン付きでムダに長い。ケーブルネットワークに契約する以外にテレビを見る方法がない。不満はたくさんあるが、チャンスは不満の中にある。アメリカのスマートライフを取り巻く環境は「チャンスだらけ」だと述べた。

その中で松村氏は、ソフトバンクによる買収が伝えられているT-Mobileの現状に触れ、「今どんな人がどのようにスマートフォンを使っているのか、きちんと見て、どう提案するかをちゃんと考えている会社」と評した。

T-Mobileは米国4位のキャリアだが、「クールな展開で高い成長率を見せている」と言う。2年契約を設けずに料金を低価格化・明瞭化し、家族4人が月額100ドルで利用できるプランや、300ドルまでの端末下取り、他社の早期解約金350ドルを負担するキャンペーン、また音楽ストリーミングサービスのデータ料金を無料にするプロモーションなどの事例が紹介された。

「アンキャリア戦略」で施策を打ち出すT-Mobile

スマートライフとは何か?

スマートライフを定義する上でのキーワードとして、松村氏は「モバイルネイティブ」「PC/タブレットスルー」そして「NEST」を挙げた。スマートフォンが主のメディアとなり、生活の不便を都市の資源として活用し、モバイルアプリで解決するというデザインをしているというのが、松村氏の言うモバイルネイティブの世界だ。

また、スマートフォンが核になることで、PCやタブレットに触れずに生活を完結することが可能になる。そのとき、一画面で完結する形で情報が流通・消費されることがモバイルネイティブのデザインパターンになるのではないかと、松村氏は予測する。氏が「Cardify(カード型になったもの)」と呼ぶように、発想の出発点がPCベースとは全く異なるのだ。

モバイルネイティブの学びを考えた学習ツール「goocus Pro(グーカスプロ)」をプロデュース

もう一つの「NEST」は、気象条件や空調機器の使用状況をクラウドに記録し、人の行動パターンを学習することで、節電しながら快適な暖房を調節してくれるサーモスタットアプリのこと。サンフランシスコではこれがスマートライフと思われているが、日本ではそうはなり得ない。一般的にサーモスタットが使われていないからだ。スマートライフの前提、問題の在処が異なるのだ。スマートフォン自体はグローバルプロダクトとして成長してきたが、スマートライフはローカルに便利なように作られるものである。ここで日本の課題が明らかになる。

松村氏 「つまり、日本のスマートライフは日本で作らなくてはならない。とすると、スマートライフを今のスマートフォン主体で作ろうとしたら、コードが書けなくてはならないのではないか?」

松村氏は講演の冒頭で、スマートライフのサイクルを作る3つのポイントを挙げた。それは「Explore(体験・発見する)」「Understand(理解する)」「Realize(実現する)」というもの。今回の講演においてはここまでがExplore、Understandの内容だ。ではそれを実現するものは何だろうか。

体験・発見、理解、実現のサイクルがスマートライフを作る

モバイルネイティブ時代の問題解決をデザインする

こうした考えから設立されたのが、通信制高校「コードアカデミー高等学校」だ。一部でデジタルを排除しようという動きすらある学校教育の中で、Googleが企業向けに提供するAppsをエデュケーションに活用し、キャンパスをクラウドだけで設計した学校だ。立ち上げ時から松村氏がスーパーバイザーとして参加し、現在は副校長と務める。年に数回紙をやり取りする従来の通信制教育と異なり、インタラクティブなやり取りや、デジタルを活用した自由なカリキュラムを作ることができる。

クラウドを活用したインタラクティブな通信制高校

また、コードを書ける人を育てることがもう一つの特徴。始めにプロジェクトをベースにコードを書けるようにするため「Sunaba」を使って指導し、その後は作品を仕上げることを目標に「Swift」を教えることにしているという。自分でアプリを作りながら、発見・理解・実現の流れを手元のスマートフォンで体験することが目的だ。MITメディアラボ所長 伊藤穰一氏は、「コードを学ぶと、他の強化の理解が深まる」と言う。松村氏はこれについて、「仕事でも同じ」と考えているそうだ。

「コードは汎用性の高い必須スキルでありツールとなった」

松村氏「コードが書ける人は、他の分野に対してもどうハックすればよいかを勉強し理解して、それをプログラムで解決する流れを生み出す。ExploreとUnderstandとRealizeを生み出していける人になる。」

テクノロジーがスマートフォンという形で身体に密着するようになった現在。生活の中の問題はグローバルに捉えるべきだが、ミクロのものについては地産地消でテクノロジーを使って解決していくことが競争力になると、松村氏は繰り返して訴えた。