ルネサス エレクトロニクスは、7月9日に今年2回目の早期退職の募集を発表した。対象は、設計開発部門で拠点集約にともない異動が求められている約800人だが、募集人数は特に定めていない。ルネサス エレクトロニクスは、2010年4月に、NECエレクトロニクスとルネサステクノロジが経営統合して誕生した。その当時4万人以上いた人員は、今年3月末に2万7200人まで減っているが、まだ人員縮小が終わらない。

ルネサスは、世界トップクラスのフラッシュマイコンを軸に幅広い製品ラインナップを持つ。使われる用途も、自動車、産業機器、家電、通信インフラ、オフィス機器向けなど幅広い。各分野で、なくてはならない重要な部品やシステムLSIの設計・製造を担っている。 特に車載LSI(自動車に使われるシステムLSI)では、ルネサスしか作っていない製品が多い。

思い出すのは、2011年3月の東日本大震災でルネサスの主力工場である那珂工場(茨城県ひたちなか市)が被災し、操業が停止した時のことだ。この1つの工場が止まってしまったために、世界中で自動車生産が停滞した。

自動車メーカーは、在庫を持たずに「ジャスト・イン・タイム」で部品を供給しながら生産を続ける「サプライ・チェーン・マネジメント」を世界規模で実施していた。在庫を持たないで生産性を高めるトヨタ生産方式を、世界規模で徹底してきた結果といえる。ところが、それが震災の際に問題を生じた。ルネサスの部品が入ってこないために、サプライチェーンにつながる世界中の自動車工場が生産を減らさざるを得なくなったのだ。

ルネサスの工場復旧には、ルネサスの従業員だけでなく、協力工場や顧客企業からも応援がかけつけ昼夜を分かたず作業を続けた。その結果、予想以上に早く、生産を再開することができた。危機に瀕してのルネサス従業員の結束力と使命感を、世界に知らしめる話となった。

このニュースを聞いて、多くの人が素朴な疑問を感じた。「そんなに重要な製品を作っているルネサスは、なんで利益が出ないのか?」

赤字が続く理由は、明確だ。あまりに「幅広く」製品を作りすぎていることが問題だ。顧客企業の要請に応じて、技術的にむずかしい少量多品種のシステムLSIを何でも引き受けて作り、コスト割れの価格で納入してきた。顧客企業から見ると、非常にありがたい会社だが、それではルネサス自体が利益を上げることは難しかった。

東日本大震災のあと、自動車など顧客企業は、ルネサスだけに重要なLSIを頼るリスクを十分に認識した。BCP(危機発生時にビジネスを継続する体制作り)が日本の製造業全体でキーワードとなった。その結果、顧客企業の中から、ルネサス1社に依存していた部品を複数調達に切り替えるところが増えた。それがルネサスの売り上げを減らす要因になった。

こうしてルネサスは日本の製造業にとってなくてはならない重要な会社でありながら、いつまでも赤字体質を抜け出せなかった。ルネサスに欠けていたのは技術力ではない。技術力は世界屈指といえる。それを生かす経営力が欠けていたと言わざるを得ない。

執筆者プロフィール : 窪田 真之

楽天証券経済研究所 チーフ・ストラテジスト。日本証券アナリスト協会検定会員。米国CFA協会認定アナリスト。著書『超入門! 株式投資力トレーニング』(日本経済新聞出版社)など。1984年、慶應義塾大学経済学部卒業。日本株ファンドマネージャー歴25年。運用するファンドは、ベンチマークである東証株価指数を大幅に上回る運用実績を残し、敏腕ファンドマネージャーとして多くのメディア出演をこなしてきた。2014年2月から現職。長年のファンドマネージャーとしての実績を活かした企業分析やマーケット動向について、「3分でわかる! 今日の投資戦略」を毎営業日配信中。