7月9日、日本記者クラブで新浪剛史ローソン会長の会見が開かれました。政府の産業競争力会議民間議員でもある新浪氏は「日本経済の現状」、また、サントリーホールディングスの次期社長に就任する上での意気込みや「これからの時代に必要な企業経営者像」について率直な意見を述べました。

ビジネスパーソンに向けて、これからの時代を生き抜くヒントやメッセージの詰まった記者会見となりましたので、その詳細をご紹介したいと思います。

日本記者クラブで会見する新浪剛史氏

「全てがインフレになるという意識に変える必要がある」

まず、新浪会長は今の日本経済が「デフレを脱却しインフレに向かっている」ということを強調した上で、「インフレに向かいつつある日本経済の中、全てがインフレになるという意識に変える必要がある。この15年間で世界が変わってきたなかで、日本だけが内向きになり、遅れてしまった。企業経営者にとっては、何もやらない方が良いという考え方から、何かをやらなければならないという考え方へ、変える時期に入ってきている」と力説しました。

そのために必要な企業のあり方としては「現在6%~7%のROE(株主資本利益率=企業の収益性を測る指標)を高めていく必要がある。今のROEの水準では欧米と比べて低すぎる。もっと世界のなかで強い企業を作ることが大切だ」と解説。

また「GPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)の存在意義は大きいので、ぜひ、モノ言う株主の代表格になってもらいたい。スチュワードシップコード(中・長期投資家と企業との対話)を積極的に導入し、企業の持続的な成長につながれば良い」と述べました。

「デフレというのは、何もしない人や企業が得をする環境を作ってきた」

その上で、「デフレというのは、失敗を恐れ何もしない人や企業が得をする環境を作ってきた。つまりコストカットする人が出世してきた。そのなかで同質性を好むようになり、社外取締役を始め、流動性のある人事が避けられてきた。欧米の企業などはトップの異動も激しくなる一方、日本人のマインドはこの15年間で弱くなり、企業経営者のレベルも落ちてしまった。本来、イノベーションを起こすためには、もっと社外の人材を入れるべきであり、いろいろな血を入れ、本当の意味でのダイバーシティ経営をするべきだ。失敗した人間こそおもしろい。だから私も(ローソンの社長に)玉塚元一氏を迎え入れた。守りに入れば入るほど、世界からとり残される」と意識改革の必要性を訴えました。

また、産業競争力会議の議員である立場から、「アジアはASEAN(東南アジア諸国連合)を中心にインフラが弱く、インフラ投資の市場がある。そして中間層も多いことから流通市場も活発だ。日本が実現してきた成功パターンをアジア諸国に教えていくことで、ビジネスも広がるのではないか。ただ、中国に関しては賃金が上昇し、輸出競争力は低下しているのが懸念材料だ」と分析しました。

そして「もっと、日本の農産物や加工食品を輸出しやすい状況を作るべきだ。鰻や焼き鳥のたれなど、秘伝とされている加工食品は成分表示が明確でないために世界標準の安全基準を満たしていない。輸出するためには、工場管理を始め、世界が認める安全基準が証明されなければならず、その証明を取得するためには1億円、2億円と費用がかかる。海外輸出の体制を考えて、公的な支援が必要だ」と強調しました。

「『やってみなはれ』でビジネスの世界で挑戦していきたい」

世の中が注目するサントリーの次期社長就任については、「サントリーは、日本の文化、日本の水にこだわっており、アイデンティティーをしっかりと持っている日本の企業だ。無国籍企業ではない」とした上で、「日本の持つ良さ、日本企業の良さ、日本製品の良さを、海外の人たちに受け入れてもらえるよう努力したい。今は政府の産業競争力会議の仕事もしているが、政治とビジネスは別物だと強く感じる。語弊があるかもしれないが、政治は票を集め、ビジネスは銭を集める。もっと政治の世界にリアルビジネス出身者がいるべきだと感じる。だからこそ、ビジネスと政治をつなぐ会議の場を作っていくべきだ。ただ、私は政治の世界に面白みを感じることはできないタイプで、ビジネスの世界が合っている。これからも『やってみなはれ』(サントリーの精神)でビジネスの世界で挑戦していきたい」と熱い意気込みを語りました。

新浪剛史ローソン会長は、10月1日付けで、サントリーホールディングスの社長に就任する予定です。

執筆者プロフィール : 鈴木 ともみ(すずき ともみ)

経済キャスター・ファィナンシャルプランナー・DC(確定拠出年金)プランナー。著書『デフレ脳からインフレ脳へ』(集英社刊)。東証アローズからの株式実況中継番組『東京マーケットワイド』(東京MX・三重テレビ・ストックボイス)キャスター。中央大学経済学部国際経済学科を卒業後、現・ラジオNIKKEIに入社。経済番組ディレクター(民間放送連盟賞受賞番組を担当)、記者を務めた他、映画情報番組のディレクター、パーソナリティを担当、その後経済キャスターとして独立。企業経営者、マーケット関係者、ハリウッドスターを始め映画俳優、監督などへの取材は2,000人を超える。現在、テレビやラジオへの出演、雑誌やWebサイトでの連載執筆の他、大学や日本FP協会認定講座にてゲストスピーカー・講師を務める。