昨年、宮藤官九郎が手がけた『あまちゃん』が大ブームになってから、「やっぱりドラマは脚本!」、そんな声がよく聞かれるようになった。また、春ドラマの『BORDER』が裏番組の『MOZU』を逆転したのも、「金城一紀の脚本がスゴかった」という声が、その傾向を確かなものにしつつある。

そんな中、夏ドラマの中で脚本家にフォーカスをあてた異色の作品がある。13日スタートの『おやじの背中』(TBS系毎週日曜21:00~)は、「父と子」をテーマに10人の脚本家が1話ずつ手がけるオムニバス形式。しかもその10人は、実力と実績を兼ね備えた日本を代表する脚本家だ。

この形式は必然的に「誰のどの話が良かった」「あの人の話はつまらなかった」と比べられるだけに、脚本家たちは覚悟をもって書き上げるだろう。期待値は高まるばかりだが、第1回放送の前に、脚本家たちの代表作と作風を紹介していく。

ドラマ『おやじの背中』の第1話で田村正和と共演する松たか子

ドラマ界のレジェンドカルテット

今年はスキージャンプの葛西紀明選手が活躍してから、各ジャンルで"レジェンドブーム"が起きているが、ドラマ界にも指折りのレジェンドたちがいる。しかも今作には4人もの伝説的な人物がそろったのだからスゴイ。年齢の合計は303歳、作家歴200年以上の大ベテランだが、いずれも現役バリバリだ。

1人目のレジェンドは、古くは『前略おふくろ様』『北の国から』、最近では『優しい時間』『風のガーデン』などを手がけた79歳の倉本聰。今では当たり前になった主人公の語り(モノローグ)を広めた立役者でもある。

2人目のレジェンドは、80~90年代にかけて『金曜日の妻たちへ』『男女7人夏物語』『ニューヨーク恋物語』『29歳のクリスマス』などのヒット作を連発した76歳の鎌田敏夫。時代や文化を織り交ぜながら大人の人間関係を描き、数々の社会現象を起こした名手だ。

3人目のレジェンドは、古くは『岸辺のアルバム』『ふぞろいの林檎たち』、最近では『ありふれた奇跡』『時は立ちどまらない』などを手かけた80歳の山田太一。普通の人々を描いた群像劇が多く、悩み苦しむ主人公の長ゼリフなど見どころは多い。

4人目のレジェンドは、映画『楢山節考』、田村正和と木村拓哉が共演した『協奏曲』、今年1月には尾野真千子主演の『足尾から来た女』を手がけた68歳の池端俊策。ヒューマン作品の得意なNHKとTBSを中心に執筆してきただけに、今作のコンセプトにピッタリだ。

名ゼリフの連発の男女2トップ

「今、最も安定した視聴率を稼げる脚本家」と言われているのは、坂元裕二。かつては、『東京ラブストーリー』『同・級・生』などの月9ラブストーリーを手がけていたが、最近はめっきりシリアス路線。『それでも、生きてゆく』『Woman』『最高の離婚』など、「キレイごとで終わらない」、胸にグサッと突き刺さるようなセリフの応酬でファンを増やしている。

人間ドラマのうまさなら橋部敦子も負けていない。三浦春馬の熱演が記憶に新しい『僕のいた時間』、草なぎ剛を演技派俳優に押し上げた『僕の生きる道』シリーズ、非正規雇用やうつ病などの社会問題を絡めた『フリーター、家を買う』など、"生きること"を考えさせられる名作が多い。

優しさあふれる独自の"ワールド"

「日本一ハートウォーミングな脚本家」なら文句なしで岡田惠和。『最後から二番目の恋』『泣くな、はらちゃん』『ちゅらさん』など、見終わったあと優しい気持ちになれる作品が多い。登場人物もストーリーも奇をてらったところがなく、"何気ない日常にあふれた大切なもの"をそっと教えてくれる。

夫婦共同名義の木皿泉も"ジワジワくる"系。『すいか』『Q10』『野ブタをプロデュース』などの代表作は、いずれも穏やかな物語ながら、セリフは心に深く染み渡り、テーマも普遍的で、その印象が色あせないものばかりだ。

ドラマ・映画きってのヒットメーカー

まずドラマ界のヒットメーカーは、井上由美子。『エンジン』『GOOD LUCK‼』の木村拓哉作品をはじめ、『白い巨塔』『14才の母』『緊急取調室』など、主人公のキャラが印象的なヒット作を連発している。さらに夏ドラマでも上戸彩が不倫妻役に挑む『昼顔~平日午後3時の恋人たち~』を手がけるなど、常に各局から引っぱりダコ状態。ジャンル不問で書き続けているが、父子の関係を描いた作品はないだけに興味をそそられる。

一方、映画界のヒットメーカーは、バラエティ番組でもおなじみの三谷幸喜。『THE 有頂天ホテル』『ザ・マジックアワー』『みんなのいえ』などのヒット映画を連発しているが、ドラマでも『古畑任三郎』『王様のレストラン』『新選組!』などの名作が多い。「さんざん笑わせておいて、最後はほっこりさせてくれる」作風は相変わらずだが、"隠し撮り"や"全編1シーン1カット"など、「人と違うことをやる」人だけに今作での期待も大きい。

21年ぶりの大勝負に挑むTBS

TBSの日曜21時枠で1話完結形式のドラマを放送するのは、『おんなの家』の1993年3月以来、実に21年ぶり。さらにこの形式は、「気軽に見てもらいやすい反面、ストーリーが薄くなりがち」というリスクもあるだけに、大きな賭けとなる。実際、2年前にフジテレビが放送した『東野圭吾ミステリーズ』は、平均視聴率8.4%という大ブレーキで、以降この形式は使われていない。

ただ、そんな不安を差し引いても、『おやじの背中』には「この10人が書くのなら…」と期待したくなってしまう。10人の中に若手は1人もいない。そして全話オリジナルのストーリー。つまり、ベテランたちの円熟したストーリーテリングを存分に楽しませてもらえるだろう。

■木村隆志
コラムニスト、テレビ・ドラマ評論家、タレントインタビュアー。1日のテレビ視聴は20時間(同時視聴含む)を超え、ドラマも毎クール全作品を視聴する重度のウォッチャー。雑誌やウェブにコラムを提供するほか、取材歴1000人超のタレント専門インタビュアーでもある。著書は『トップ・インタビュアーの聴き技84』など。