7月2日、IMF(国際通貨基金)における講演で、米国の中央銀行にあたるFRB(連邦準備制度理事会)のイエレン議長は、「金融市場において、リスクテイクの増加がみられる」と語り、それが一段と加速するようであれば、金融機関の監視や業務規制などの厳格なマクロプルーデンス政策が必要になるかもしれないとの見解を表明した。いわゆる「金融バブル」への警戒感をにじませたのだ。

イエレン議長の見解は、FRBが金融政策を決定する場であるFOMC(連邦公開市場委員会)でも共有されていた。6月17-18日に開催されたFOMCの議事録によれば、「最近の金融市場で、投資家が意思決定に際してリスクを十分に考慮していない可能性」について議論がなされた。そして、数人の参加者は、「株式、通貨、債券市場におけるインプライド・ボラティリティ(予想変動率)の低下や、リスクテイク増加の兆候は、投資家が経済や金融政策の先行きに関する不確実性を十分に織り込んでいないサインだ」とみなしていた。

さらに、FOMCの参加者は、「金融情勢を注意深く監視し、過剰なリスクテイクや金融市場の不均衡に対応するために、必要であるならば、監督権限を利用すべきだ」という点で一致した。

その一方で、「金融政策は引き続き、景気拡大をサポートする好ましい金融情勢を促進し続ける必要がある」として、過剰なリスクテイクへの対応と金融政策の間に一線を画した。

イエレン議長のIMF講演があった7月2日、NYダウ平均株価は終値ベースで史上最高値を更新した。また、FOMC議事録が公表された7月9日にも、NYダウ平均株価は上昇した。FRBによる利上げの開始が前倒しになることはないと読んだためだ。これこそが、議事録が指摘したところの「株式市場参加者の慢心(complacency)」なのかもしれない。

たしかに、先のIMFでの講演で、イエレン議長は「金融政策は、金融安定をもたらすツールとしては大きな制約がある」、「マクロプルーデンス政策が優先的な役割を担うべきだ」などと述べた。ただ、一方で、「金融安定のリスクに対して、金融政策の調節(=流動性の吸収や利上げ)で対応すべき時がくるかもしれない」とも述べているのだ。

現在、「金融バブル」が大きく膨らんで、金融安定が脅かされる状況が迫っているということではないだろう。ただし、投資家のリスクテイクが一段と強まるようであれば、今後FRBからどのような警告が発せられるか、注意しておく方が良さそうだ。

執筆者プロフィール : 西田 明弘(にしだ あきひろ)

マネースクウェア・ジャパン 市場調査室 チーフ・アナリスト。1984年、日興リサーチセンターに入社。米ブルッキングス研究所客員研究員などを経て、三菱UFJモルガン・スタンレー証券入社。チーフエコノミスト、シニア債券ストラテジストとして高い評価を得る。2012年9月、マネースクウェア・ジャパン(M2J)入社。市場調査室チーフ・アナリストに就任。現在、M2JのWEBサイトで「市場調査室レポート」、「市場調査室エクスプレス」、「今月の特集」など多数のレポートを配信する他、TV・雑誌など様々なメディアに出演し、活躍中。