「PMQ」を例えると、閑静な下町に現れた同潤会アパートのような重厚感漂う建物

アンティークショップやギャラリーが軒を連ね、ユニークなコンセプトのカフェ・レストランやデザインショップなどが集まるエリア・ソーホーに5月、大型デザイン複合施設「PMQ」が誕生した。官民一体となって開発された新たなランドマーク、その気になるショップたちを紹介しよう。

孫文ゆかりの建物を大規模再開発

実は、PMQに至るまでの歴史にも興味深いものがある。そもそもソーホー界隈は、香港がイギリスに割譲された早い時期からイギリス人が入植していた、香港の古い文化や歴史的な建築が多く残るエリア。かの孫文も学生時代を香港で過ごし、革命家になる礎を築いたと言われている。孫文も通っていた官学校「中央書院」(1889年~1948年)は 「警察宿舎」(1951~2000年)に変わり、さらに2014年の5月、PMQへと生まれ変わった。

PMQは、その警察宿舎の名称「Police Married Quarters」(結婚した警察官向けの宿舎)の頭文字をとったもの。建物は増改築されているとはいえ、中庭に面した広い廊下や、そこから各部屋(ショップスペース)をのぞける窓ガラスなど、19世紀につくられた学校の面影や20世紀後半の官舎の雰囲気を感じさせる空間となっている。

孫文が通っていた学校時代の生け垣が残されており、官舎だった当時の郵便受けもそのまま

施設内にはブティックや雑貨、カフェ・レストランなどのほか、デザイナーやクリエイターのためのシェアスタジオが100以上、ポップアップストアや展示のためのオープンスペースが各階に設けられ、ただのショッピングモールとはひと味もふた味も違う。なぜならこの建物の再開発プロジェクトは、香港政府と香港デザインセンター、香港理工大学などの民間企業や財団が官民一体となって取り組んだという壮大なもの。香港のクリエイターを育て、ここから発信し、クリエイティブ産業の象徴的な存在となることを目指した、大型デザイン複合施設なのだ。

総床面積は18,000平方メートル。日本のGOOD DESIGN STOREや、ABC COOKING STUDIOも入居。広い廊下には各店舗のオブジェやディスプレイも

最新のメイドイン香港を探すならここ!

では、実際にどんなショップがあるのだろうか。まずは、若手アーティストのメイドイン香港を集めたオモシロショップ「TDC Design Gallery」。半官半民団体TDC(香港貿易発展局)が運営する、香港のデザイナーやブランドを集めたショップで、コンベンションセンター、空港に次ぐ3店舗目である。

ここの店舗ではユニーク雑貨、バッグ・アクセサリーなどの服飾小物、宝飾という3つのスペースに分かれており、それぞれの違ったディスプレーが楽しめる。海外のバイヤーなども想定するなど、オリジナルブランドやデザインを発信する場にもなっている。香港でしか買えないお土産を探すはもちろん、ギャラリーとして楽しむのもあり。若手デザイナーの試し売りもあるので、お気に入りを発掘するのもよさそうだ。

ユニーク雑貨の部屋
「創作物の顔が見えるように」とデザイナーの写真が壁にかけられ、各商品脇には本人の写真付き紹介文もある。点心ワゴンのミニチュアや、昔懐かし香港の街並みや乗り物が飛び出る絵本、ブリキのおもちゃなど、大人が趣味で作ったようなオモシロおもちゃも盛りだくさんで、見ていて飽きない。

●商品例
香港名所をあしらったカップアンドソーサーセット 1,700香港ドル(約2万2,400円)
熱さ対策のゴムが付いたポットと湯のみセット 359香港ドル(約4,740円)
ブリキのおもちゃ 180香港ドル(約2,380円)
ミニチュア点心ワゴン 268香港ドル(約3,540円)
恐竜のしっぽ切りUSBメモリ(4GB) 488香港ドル(約6,440円)

服飾小物の部屋
鳥好きのデザイナーが手がけたバッグや香港の名所をモチーフにしたスカーフやネクタイなど、お土産におすすめの小物が並ぶ。

●商品例
欧米で人気の洗えるシリコンバッグ「SiliBAG」 599香港ドル(約7,900円)
持ち手が木でできた鳥モチーフバッグ 590香港ドル(約7,790円)
動物のトートバッグ(トンボ、シカ、キリン) 489香港ドル(約6,460円)

宝飾の部屋
両面時計や空き缶の底を使って文字盤に仕立てたものなど、斬新なアイデアの時計やアクセサリーを見るのも面白い。

●商品例
空き缶の底を使ったCAN WATCH 980香港ドル(約1万2,900円)
麻雀牌のカフス 495香港ドル(約6,530円)

伝統技術を現在のライフスタイルの中に

「400年前から受け継がれてきた伝統的な絹織物を文化として保存したい」、という想いのもとで展開しているのが「Loom Loop」。このショップの染色・織物は、現在、中国で2つの工場でしか採用していないという伝統技法を用いている。

広東省の佛山に生息するYum(薯莨)という植物の根から出る液体を使って染色するのだが、この染色技法が全て手作業なのだ。川の泥で染色し、竹の上に布を乗せ草の上で干し、川の水で洗うのを繰り返す。染め上がるまで45日かかるため、1デザインで5枚しか作れず、職人を1人育てるにも10年はかかるという貴重ぶり。天然素材の触り心地もよくとても着やすそうな現代的なデザイン衣服だが、一方で1着1着が時空を超えたかのような芸術作品なのだ。

●商品例
ワンピース 2,680香港ドル(約3万5,400円)
半袖シャツ 1,980香港ドル(約2万6,100円)
スカーフ 980香港ドル(約1万3,000円)
竹柄シャツ 500香港ドル(約6,600円)

記憶に残るお土産になること間違いなし

イタリアで学んだデザイナーの、実験的なキャンドルが並ぶ「BeCandle」。うっかり食べてしまいそうなほどおいしそうな点心キャンドルなど、話題土産を探すならぜひ訪れたい。ほかにも黒電話やカセットテープ、月、雲、キリスト像などなど、火をつけるのがもったいない精巧なキャンドルが所狭しと並んでいる。

人気のライスキャンドルは、ビーズ状のキャンドル素材をグラスなどに入れて、芯を差せばキャンドルになるというオリジナルもの。燃えて残ったものを砕くとまたビーズ状に戻るので、再利用のほか、追加も可能。ヤシの葉を精製した天然のパームワックスを使用するなど、環境にもやさしいというこだわりっぷり。8種の色展開から選べる2色とキャンドルグラスのセットもおすすめ(セットで140香港ドル=約1,850円。単品1個40香港ドル(約530円))。

●商品例
点心キャンドル 2個入りで180香港ドル(約2,380円)
チャーシュー(肉まん風) 1個入りで150香港ドル(約1,980円)
カセットテープ 150香港ドル(約1,980円)
本 270香港ドル(約3,560円)

世界にひとつだけのモダンチャイナドレス

「THREE ARTISANS」をのぞいてみると、いままで感じていたチャイナドレスのイメージががらりと変わるはず。知り合い同士3人のデザイナーが初めて出したという店内には、チャイナドレスのほか、眼鏡や紙細工と個性豊かな3テーマの商品が並んでいる。

中でもJANKO LAMさんが手がけるオリジナルのチャイナドレスは、老齢の職人さんが一つずつ昔のやり方で作っている古典的なものから、各国で買い付けた生地で創られた現代風のものまで、バリエーション豊かだ。基本的には1柄1サイズだが(1着1,500香港ドル~(約1万9,800円~))、合わない場合は好きな生地を選んでオーダーメイドも可能(約2週間で日本へも発送可能。送料は280香港ドル=約3,700円~)。デニム素材のカジュアルチャイナドレスなどは、縫製工場で出た端切れを利用しているため全て1点もの。小さな端切れで作った花やスパンコールなども、デザイナー自身の手縫いとなっている。

※1香港ドル=13.2円で換算。記事中の価格・情報は2014年6月取材時のもの