本連載ではAppleが取り組むiPhoneやモバイルサービス、そしてこれから作りだされる未来の生活などについて、ジャーナリストの松村太郎氏が深読み、先読みしながら考えていく。今回は「iOS 8のカメラ・写真機能」をテーマにする。
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入力手段として考えたとき、パソコンがキーボードのパラダイムだとすれば、スマートフォンはカメラのパラダイムということができるだろう。スマートフォンにも、タッチスクリーンでキーボードを再現しているが、充分なサイズと、キーが上下に動き打鍵感のあるキーボードほど上手く文字入力をすることは難しい。
ただ、日本人にとっては、ひらがなを連打しながら入力する「10キー入力」やジェスチャーで入力する「フリック入力」という方法が存在していることにより、他の言語を使う人々よりも、スマートフォンでの文字入力スピードは格段に速いのではないだろうか。
もちろん、SMS(Text)、iMessage、LINEなどのモバイルメッセージングアプリなどで、我々は大量のテキストをスマートフォンに打ち込んでいる。しかし同時に、写真や画像のコミュニケーションが勃興し、スマートフォンの鍵となる機能になった。
AppleはiPhone 5sに搭載した大きなセンサーの800万画素カメラと64ビットモバイルプロセッサA7、そしてiOS 7を組み合わせて、ただシャッターボタンを押せば最適な画像が得られるカメラを追究してきた。WWDC14で発表したiOS 8では、そのカメラ・写真機能を更に一歩深めようとしている。
iPhoneのカメラ機能の進化
WWDC 2014の基調講演のスライドを見ると、iOS 8のカメラは、iOS 7で刷新されたデザインを踏襲するようだ。
黒をベースとして、左右のスワイプで撮影モードを切り替えることができ、エフェクトをかけた写真も仕上がりをファインダーで確認しながら撮影できる。iPhone 5sでは、バーストモードと呼ばれる連写機能や、1秒間に120コマの滑らかなスローモーション動画の撮影に対応していた。このほかの新しい機能の搭載にも期待したい。
iPhoneはこれまで、シャッターボタンを押せば最適な写真が撮れることを追究してきた。iPhone純正のカメラアプリは、今後もその方針で行くだろう。多くの条件下で、写真はただシャッターを切るだけで、ちょっと良いコンパクトデジタルカメラの画質に迫り、特に動画については身近な価格の一眼レフカメラの画質を凌駕するほどだ。
アプリからはより詳細なコントロールを可能に
写真加工は楽しいものだ。iPhone標準のカメラアプリだけでなく、InstagramやVSCOcamといった写真加工が可能なアプリを使っている方も多いだろう。
そうしたアプリを開発する開発者が注目しているのは、iOS 8で用意されるCameraKitと呼ばれるAPIだ。このAPIを利用すると、アプリからカメラのマニュアルコントロールが可能になる。開発者向けには、焦点や露出、ホワイトバランスなどをコントロールすることができる機能を解放した。
多くのデジタルカメラには、iPhoneのようにシャッターを押すだけで最適にしてくれるオートモードがあるが、写真を明るくするのか暗くするのか、という露出補正(-3、+2といった設定)は設定できる。その上で、個別には、ISO感度、シャッタースピード、露出、ホワイトバランスなどの設定が可能だ。こうしたコントロールが、iPhoneのアプリでも実現できると言うことだ。
例えば、シャッタースピードを固定してそれ以外を自動的に設定するとか、ISO感度と露出を固定する、といった組み合わせで好みの設定を行う。例えば、スポーツなどの動きが速い被写体は、速いシャッタースピードと高めのISO感度で使ったり、花火の場合はあえて遅いシャッタースピードに設定することもある。露出はレンズによってはボケ具合にも関係する。
こうしたコントロールはデジタルカメラ、特にミラーレス一眼以上のカメラでよく使われている機能だが、iPhoneのカメラにもこうした設定が持ち込まれることになる。
写真を編集し、クラウドに保存する
iPhoneの写真は撮影後の楽しみも重要だ。撮影してすぐ見られるだけでなく、すぐに誰かに送信出来る点で、冒頭で書いた画像でのコミュニケーションを作り出し支えている。こちらも既に触れたが、撮影後の加工はまさに、スマートフォンの写真アプリの大きな競争領域となっていた。
ここに、AppleはiOS 8の標準機能として参入するつもりだ。iOS 8の写真アプリでは、これまでの回転や自動補正、赤目防止といった編集機能に加えて、明るさ、ハイライト、色温度など、フォトレタッチソフトで用いられるほど詳細な写真の編集を、スライド式の新しいインターフェイスで実現した。
もちろん写真編集アプリを提供していた企業にとっては大打撃となり得るが、ユーザーの多くが使っているアプリの機能をOSとして取り込み利便性を図るというのは、アプローチとして間違っているとは言えない。そうした加工なしに最適な写真を作り出すというコンセプトと、編集したいというユーザーのニーズの間で、今回Appleは、編集できるようにする道を選んだ、といえる。
また、写真の保存方法も新たになる。iCloudフォトライブラリという機能の登場だ。
AppleはiCloudの機能として、フォトストリームという機能を提供してきた。1000枚、30日間の写真を無料で保存し、iPhone、iPad、MacのiPhoto、そしてWindowsのフォトライブラリと同期を取ることができる機能だ。端的に言えば、フォトストリームをONにしているiPhoneで写真を撮ると、iPadや、MacのiPhotoにも自動的に写真が読み込まれるという仕組みだ。しかし本体のフォトライブラリとフォトストリームは別の扱いとなっていた。
iOS 8からは、フォトライブラリそのものを丸ごと同期する仕組みへと変わり、フォトライブラリごとバックアップされる仕組みへと変更された。
これまではiPhoneで撮影してフォトストリームで自動的に取り込まれた写真をiPadで編集する場合、一度フォトストリームからフォトライブラリへコピーしなければならなかった。このコピーの手間がなくなり、編集すると瞬時にiPhone側にも編集結果が反映されるようになる。
その代わり、iCloudのストレージを写真用に使うことになるが、無料で5GBまで利用できるオンラインストレージの追加分を大幅に値下げし、20GBで月額0.99ドル、年間およそ1200円程度になった。現在の追加ストレージの価格は、20GBで4000円となっており、大幅値下げとなる。
膨大な写真データと、いかに付き合うか?
皆さんは現在、写真をどのように管理しているだろうか。iPhoneでの撮影も増えてきたが、まだまだデジタルカメラで写真を撮ることの方が多く、Macに取り込むとフォトストリームを介してiPhoneに自動的に送られてきて、InstagramやTumblr等への投稿用に利用できるようにしている。
あるいは、Eye-fiなどの無線LAN内蔵SDカードや、デジタルカメラに内蔵するWi-FI機能で、iPhoneに直接、デジタルカメラから写真を読み込むことができるようにもなった。いずれにしても、コミュニケーションやソーシャルへ流す起点としてiPhoneが存在している以上、何らかの形でiPhoneに写真を取り込むことが重要になった。
その点、新しいiCloudフォトライブラリは、重宝する機能になりそうだ。
また、Appleは、iOS 8とOS X Yosemiteに搭載される写真編集機能を意識して、プロ向けの写真編集ソフトであり、長らくバージョンアップが進んでいなかったApertureの開発終了が伝えられた。現在の写真管理・編集ソフトであるiPhotoと、プロ向けのApertureから、新しい「Photos」への移行が起きる、インパクトのある年になりそうだ。
しかし、ストレージの量については、おそらく不十分なものになるだろう。iPhoneのストレージのサイズは128GBであり、アプリ、音楽、映画と行ったコンテンツも保存するが、たくさんの写真やビデオを撮影した場合、無料5GB、有料20GBで年額1200円という容量そのものは充分だとは言えない。確かに安くなったが、まだ足りない、という印象だ。
筆者は、AppleのiCloudではなく、写真をFlickr(無料で1TBまで保存可能、以前契約した有料プランであれば、年間約2,500円で無制限に利用可能)と、Google+(長辺2048ピクセルの写真なら、無制限にバックアップ)を利用している。おそらく新しいiCloudフォトライブラリのサービスが始まっても、この体制を変えないだろう。
そうした写真の扱いをどうするのか、という点に、もう少し長い視点で踏み込んでいくべきだと考える。例えば、Appleが、一生分の写真を責任持ちます(だから、iPhoneをずっと使い続けて下さい)という宣言も、インパクトがあるのではないだろうか。