「連ドラ史上最も豪華なキャスティング」と言っても過言ではない。7月9日スタートの『若者たち2014』(フジテレビ系 毎週水曜22:00~22:54 初回30分拡大)に、妻夫木聡、瑛太、満島ひかり、吉岡秀隆、蒼井優、長澤まさみ、橋本愛…。いずれも主演ドラマを持つ売れっ子たちがよくも集まったものであり、それだけに彼らの迫真に迫る演技合戦が今から待ち遠しい。しかし、「出演作品を選べる」立場の演技派たちが、なぜ今このドラマに集まったのか? その理由と作品の魅力に迫る。

ドラマ『若者たち2014』に出演する妻夫木聡

超名作の現代版リメイク

『若者たち2014』は、1966年に放送されたドラマ『若者たち』をベースにしている。同作は、「幼いころに両親を亡くした貧しい5人兄弟が力を合わせて、たくましく生きる姿を描いた」ヒューマン作品。この設定、どこかで見たような…そう、90年代を代表するドラマ『ひとつ屋根の下』のモチーフになった名作なのだ。

当時、田中邦衛、橋本功、山本圭(『ひとつ屋根の下』にも出演)らの熱演で話題を集め、世代を超えて共感を呼び、主題歌『若者たち』も大ヒット。当時の日本人と日本社会に大きな影響を及ぼした作品だった。

今作はベースの設定こそ同じだが、登場人物が抱える悩みや社会問題は、現代ならではのものも多いという。勧善懲悪などの単純明快なドラマが全盛の中、テーマが大きく多様な『若者たち2014』は、難しい反面やりがいは大きい。主演の妻夫木聡は、「今の若者にも絶対に熱はある。このドラマでそれを呼び起こさせる自信があります」と断言。彼らの熱演は、現代の若者たちに響くのか。

演出家・杉田成道の引力

主演級の俳優が集まったのは、演出家のラインナップによるところも大きい。メインを務めるのは、『北の国から』で知られるドラマ界の名匠・杉田成道。約20年ぶりに連ドラの演出を手がける杉田は、かつて『若者たち』の熱心な視聴者であり、企画段階から関わったというから意気込みは強い。

実際、妻夫木は「杉田さんから『本気になってもらわないと困る』と聞いて、『この人とだったら作品と一緒に死ねる』と感じた」、満島も「杉田監督はスゴイ。パワーを感じるし、1人1人が個人として強く存在して素晴らしい」と心酔しているようだ。杉田に演出をつけてもらう機会はめったにないだけに、これだけの俳優が集まったのだろう。

演出は杉田のほか、『Dr.コトー診療所』『ひとつ屋根の下』らの中江功、『最高の離婚』『それでも、生きてゆく』らの並木道子をそろえ、まさに盤石の体制。3人とも、「熱くて、優しくて、愛があって…思わず涙がにじむ」世界観を作り上げる名手だ。

『家族ゲーム』リメイク成功の脚本家

脚本を担うのは、ドラマ『電車男』『花ざかりの君たちへ~イケメン♂パラダイス』『ジョーカー 許されざる捜査官』、映画『テルマエ・ロマエ』『クローズZERO』らを手がけた武藤将吾。大胆な切り口、ユーモア豊かな人物描写、グイッと引き込まれるストーリーの三拍子がそろった実力派で、30代脚本家の中でも頭ひとつ抜け出した感がある。

さらに昨年、櫻井翔主演の『家族ゲーム』の脚本を担当。松田優作、長渕剛主演で一世を風靡した名作だけに放送前は、「何で今さら」「櫻井のイメージと違うが大丈夫か?」と不安視されたが、見事に新たなストーリーの現代版を作り上げた。つまり、武藤は「名作の現代版リメイクに実績がある」ベストの脚本家なのだ。

絶滅危惧種の若者群像劇にトライ

このところ、安定した視聴率を稼ぎやすい刑事・医療ドラマが増え、学生や20代の生き方を扱った若者群像劇がすっかり姿を消した。その理由は、「若者がテレビを見なくなった」からなのか、それとも「若者の考えていることに大人が共感できない」からなのか。

実際、3月まで放送された三浦春馬主演の『僕のいた時間』も序盤こそ若者群像劇の要素もあったが、すぐに"難病モノ"オンリーになってしまった。その意味で『若者たち2014』は、「需要がないかもしれない作品に挑む」大きな挑戦であり、大きな賭けとも言える。

5人兄弟に加え、彼らに関わる人々が直面する問題は、学歴、就職、格差、孤独、結婚、夢、命などの普遍的なものばかり。理想と矛盾を抱え、激論や大ゲンカを交わすシーンは、豪華俳優の力量が現れる名物シーンになるだろう。

そして若者群像劇と言えば、「悩み苦しみながらも、最後は必ず希望を見せてくれる」のが大きな魅力。『半沢直樹』のように「スカッとした。明日も頑張ろう」という応援歌になるかもしれない。

スタッフも俳優も間違いなく本気

私はキャスト・スタッフへの取材をし、第1話の試写を視聴したが、杉田監督らしく、武藤脚本らしく、そして若者群像劇らしい内容だった。

もしかしたら「今の若者はこんな感じではない」という指摘があるかもしれない。ただ、この手の直球ドラマは賛否両論がつきもの。「やっぱりドラマはこうでなくちゃ」「どこか懐かしい青春ドラマが戻ってきた」と感じる人も多いだろう。それだけに若者だけでなく、かつて若者だった人たちにこそ、ぜひ見て欲しい。

現段階で間違いなく言えるのは、「スタッフと俳優が魂をぶつけ合うようにして、本気で作っている」こと。演技派俳優たちの真夏っぽい熱演を見るもよし、若者たちの生き様にあれこれ感じるもよし。いずれにせよ、「このドラマでしか見られない」ものがあることは約束できる。

■木村隆志
コラムニスト、テレビ・ドラマ評論家、タレントインタビュアー。1日のテレビ視聴は20時間(同時視聴含む)を超え、ドラマも毎クール全作品を視聴する重度のウォッチャー。雑誌やウェブにコラムを提供するほか、取材歴1000人超のタレント専門インタビュアーでもある。著書は『トップ・インタビュアーの聴き技84』など。