2014年前半のレビュー
今年前半に上昇が目立った通貨は、NZドルや豪ドルといった、いわゆる高金利通貨だった。為替市場がこう着感を強めるなかで、金利差、FXでいう「スワップ」の重みが相対的に増して、高金利通貨が選好されたのだろう。
一方で、ドルは軟調だった。米景気が盛り上がりを欠くなかで、イエレンFRB議長が金融緩和長期化の意向を鮮明にしたためだ。そして、日銀の追加緩和期待が後退したことも、ドルの助けにはならなかった。ECBが追加緩和に踏み切ったユーロも軟調だった。
2014年後半の見通し
足もとの「低ボラティリティ(変動率)」相場は、いつまでも続かないだろう。今年後半にボラティリティが高まれば、為替相場にも流れが出そうだ。日米欧を軸とした金融政策の方向性の違いが、改めて為替相場に反映されると考えている。
QE(資産購入)の年内終了がほぼ確実視され、来年半ばごろの利上げ開始が次第に現実味を帯びるドルが選好され、一方で追加緩和観測が根強いユーロや円が下落圧力を受けやすいだろう。
米国の1-3月期の実質GDP成長率は大幅なマイナス(前期比年率-2.9%)だったが、4-6月期以降は景気の改善が確認されるだろう。6月の雇用統計は期待以上の結果となった。FOMC内には早めの利上げの可能性に言及するメンバーもおり、「金融緩和の長期化が必要」だとするイエレンFRB議長の姿勢にも変化が出てくるのではないか。
一方、ユーロ圏では、デフレを警戒するECBが追加緩和に踏み切る可能性がある。とりわけ、準備を進めているABS(資産担保証券)購入が実施されれば、ユーロに下押し圧力が加わりそうだ。日銀の追加緩和期待は次第に後退しているものの、黒田総裁は「必要であれば躊躇しない」との姿勢を崩していない。年内に予定される消費税再引き上げの判断に絡んで、追加緩和が実施される可能性も否定できない。
ドル、円、ユーロ以外の通貨では、既に利上げ局面に入っており、複数回の追加が予想されるNZドルや、景気が堅調を維持しており、年内に利上げ開始の可能性が出てきた英ポンドなどが選好されそうだ。
潜在的なリスク要因
2014年後半も、潜在的なリスク要因はある。金融市場が大きくリスクオフに傾くケースでは、一時的に円高となる可能性もありそうだ。
たとえば、米国の11月の中間選挙後にオバマ政権のレームダック化に拍車がかかれば、財政交渉の難航から米国債のデフォルト(債務不履行)が意識されるようなケースが出てくるかもしれない。エルニーニョやイラク情勢の緊迫化によって資源価格が高騰すれば、コストプッシュ型インフレによって各国経済は打撃を受けるかもしれない。その他にも、高騰を続ける米株の行方、欧州の銀行ストレステストの結果などにも注意が必要だろう。
執筆者プロフィール : 西田 明弘(にしだ あきひろ)
マネースクウェア・ジャパン 市場調査室 チーフ・アナリスト。1984年、日興リサーチセンターに入社。米ブルッキングス研究所客員研究員などを経て、三菱UFJモルガン・スタンレー証券入社。チーフエコノミスト、シニア債券ストラテジストとして高い評価を得る。2012年9月、マネースクウェア・ジャパン(M2J)入社。市場調査室チーフ・アナリストに就任。現在、M2JのWEBサイトで「市場調査室レポート」、「市場調査室エクスプレス」、「今月の特集」など多数のレポートを配信する他、TV・雑誌など様々なメディアに出演し、活躍中。