7月19日に公開されるスタジオジブリ最新作のアニメーション映画『思い出のマーニー』の完成披露記者会見が2日、都内で開催された。
本作はイギリスの作家・ジョーン・G・ロビンソンによる同名の児童文学を原作としたアニメ映画。米林宏昌監督にとっては、『借りぐらしのアリエッティ』に続く2作目の長編アニメ監督作品となる。また、宮崎駿・高畑勲の両氏が一切制作に関わっていない初のジブリ作品としても注目を集めていた。
当日は米林監督、西村義明プロデューサーのほか、声優を務めた女優の高月彩良、有村架純らが登壇し、作品に対する思いなどを語った。本稿では記者会見の模様をレポートしながら、"新生ジブリ"の第一弾作品となった本作の魅力をお伝えしていこう。
『思い出のマーニー』は、喘息を患う杏奈が療養のために訪れた海辺の村で金髪の少女マーニーと出会い、不思議な出来事に次々と遭遇する物語だ。これまでにもスタジオジブリの一員として、『かぐや姫の物語』などを担当してきた西村プロデューサーは、「『借りぐらしのアリエッティ』から4年経っており、米林監督にとっても新たな挑戦でした。現場でも期待と不安が入り交じっていましたが、力強い作品ができたと思います」と作品の完成度に自信をのぞかせる。
西村プロデューサーがそう語るのにはわけがある。米林監督にとって初の長編アニメーション監督作品となった『借りぐらしのアリエッティ』(2010年公開)は、脚本やイメージボードは宮崎監督が描いており、宮崎テイストが色濃く残る作品だった。その意味で宮崎監督が一切制作にタッチしていない本作は、米林監督にとって新しい挑戦でもあった。米林監督は、『借りぐらしのアリエッティ』を制作した4年前を振り返り、次のように語っている。
「当時は達成感がありましたが、時間が経つうちにあそこはこうしておけばよかったと反省するようになりました。2作目がもし作れるなら、もう少し違うことができるかなと思っていました」(米林監督)
そんな折、米林監督が鈴木敏夫プロデューサーから持ちかけられたのが、イギリスの児童文学『思い出のマーニー』を原作として映画を作らないかという話だった。しかし、『思い出のマーニー』は物語全体が主人公の一人語りで展開する「心の物語」であり、アニメーションにするのは難しいと米林監督は判断。一度は映画化の話を断ったという。
「でも、鈴木さんからぜひやってくれないかと言われて、何点か絵を描きながら思いついたのが、杏奈を"絵を描く女の子"にすればどうかということ。そうすれば、杏奈が物を見ている目で、杏奈の心の中を描けるんじゃないかと思い、映画を作ろうと決意しました」(米林監督)
そうした経緯を経て完成した『思い出のマーニー』は、物語の舞台を北海道に移し、杏奈とマーニーのWヒロインという形で完成した。
主人公の一人、杏奈役に抜てきされた高月は、「声優初挑戦でたくさんの方にご心配ご迷惑をおかけしましたが、"大丈夫だよ、自信を持って"とジブリの方が言ってくださったおかげで、たくさんの愛に支えられながらこの日を迎えられました」と現在の心境を語り、完成した作品を見た感想として「風や音や匂いなど、すべてのものが美しい映画です。米林監督が描かれる女の子が魅力的で、心の機微も描かれていてすごいなと思いました」と話していた。
そんな杏奈が出会う謎の少女マーニーを演じたのは、有村架純。「数々の役者さんが声優をしてきた(ジブリ作品の)中に自分の名前が残るのはプレッシャーでした」と語りながらも見事にマーニー役を演じきった有村は、完成した作品を見たとき「物語に引きこまれて、見終わってすぐに立てませんでした」という。
二人の主役をサポートするのは、ベテランの俳優だ。杏奈の養母・頼子役の松嶋菜々子は「ナウシカからのジブリファンで、作品はほとんどぜんぶ見ている」とのことで、養母役については「私も母親なので娘を思う気持ちはわかります。リアルタイムで演じることができました」と語った。
一方、杏奈を療養先で暖かく迎える大岩夫妻を演じるのは、寺島進と根岸季衣。「まさかジブリに出られるとは」と驚きを隠さない寺島に、根岸は「実写映画だったら、犯罪のひとつやふたつあってもおかしくない二人ですが(笑)、暖かい夫婦役をやれて嬉しかったです」と話し、会場の笑いを誘った。
また、謎の老婦人役の森山良子は、「アニメをやらせていただくのは初めてで、どんな仕事だろうと楽しみにしていたら、スタッフが『良子さん、老婆役だそうです』と言ってきて、どういうこと!? と(笑)」と当初の驚きを振り返り、「老婆というのが若干胸に刺さったものですから、老婦人ということでイメージを上げていただきました(笑)」と茶目っ気たっぷりに語った。
そして、もう一人の老婦人、湿地の絵を描く久子役を演じた黒木瞳は、「世界中に愛されるジブリ作品に自分がいるのがとてもうれしいです。たくさんの方に見ていただきたい」と述べた。
本作で印象的なのは、エンディングで流れるテーマソングだ。担当するのはL.A.を拠点に活動を続けるシンガー・ソングライターのプリシラ・アーン。2013年末に三鷹の森ジブリ美術館でミニコンサートを実施したことが縁で、今回の主題歌抜てきにつながったというプリシラ・アーンは、「10年前に『ハウルの動く城』を見た」のがジブリ作品に触れたきっかけだと語り、「まさか自分がジブリの主題歌を歌うことになるとは想像していませんでした。夢以上の夢が叶いました」と喜びをあらわにしていた。
本作『思い出のマーニー』は、宮崎・高畑の両氏もすでに鑑賞しており、西村プロデューサーによれば、「宮崎さんは"本当に麿呂(米林監督のアダ名)はがんばった。1+1が5になる男であることがわかった"とすごく褒めていました」という。また、高畑氏からは長文メールが届いたことも伝えた。
「メールの内容は、"作画も美術もそれ以降の工程についてもがんばっていて、さすがジブリだと言わせるものを作った。ジジイたちが去った後も、ジブリのエースとしてもてはやされるだろう"でした」(西村プロデューサー)
4月に本作に関する記者会見を開いた際、西村プロデューサーは不安でいっぱいだったと告白する。
「新しいものを取り入れるということで、何もかも見えない状況でした。良い作品が作れるのか、日々不安でした。作品ができ上がった今、何を思うのかというと、記者会見でお話したことは達成できたんじゃないかと。宮崎さん、高畑さんは『風立ちぬ』『かぐや姫の物語』を作りましたが、あれはおじいちゃんでないと作れない映画なんです。今回、米林監督が作った映画は、主人公が12歳。米林さんもお子さんがいらっしゃいますが、親世代になって子どものことを思ってようやく作れた作品なんです。ぜひ親子で見ていただきたいですね」(西村プロデューサー)
宮崎監督が引退し、大きな転換点を迎えたスタジオジブリ。新たな出発となる『思い出のマーニー』に、世界中から熱い視線が注がれている。