雨宮まみさんの新刊『女の子よ銃を取れ』の発売を記念して、雨宮まみ×少年アヤ トークイベント「他者の視線と、ほんとうの私」がこのほど、青山ブックセンター本店(東京都・表参道)で開催された。二人が外見をめぐったあれこれについて語り合う様子をお届けする。

『女の子よ銃を取れ』/雨宮まみ(平凡社)
「キレイになりたい! 」と言えないあなたに。他人の視線にびくびくしたくない。でも、どう変わりたいかわからない。顔、スタイル、ファッションをめぐり、他人の視線と自意識の間でゆれ動き、新しい一歩が踏み出せない。そんな悩める女の子の心をやさしくときほぐし、こじらせの壁を撃ち抜くエッセイ集。単行本(ソフトカバー)224ページ、1,512円(税込)。

自分に執着している

『女の子よ銃を取れ』を上梓した雨宮まみさん

雨宮まみさん(以下、敬称略)「こういう本なので、まずは今日のお衣装のコンセプトから伺おうかなと思うんですが」

少年アヤさん(以下、敬称略)「最近家を出たせいか、なんだか父親も母親も男の子も女の子もどうでもよくなってしまって、とうとう自分に執着しはじめたんです」

まみ「それは全部どうでもよくなって、ただ自分自身に執着してるの?」

アヤ「人とかどうでもいいなって思って。アイドルもどうでもいい」

まみ「他人だから?」

アヤ「そう。だからもう、自撮りした自分がかわいいっていうそれにしか興味がなくなっちゃったんですよ」

まみ「毎日一時間くらい自撮りしてるんでしょ(笑)」

アヤ「二時間ね」

まみ「しかもいいのが撮れるまで」

アヤ「そう、自撮り画像で容量が爆発するくらい。そんなだからおしゃれをしたいって思うようになったんです。でもユニクロとGU以外にどこに服が売ってるかわからない」

まみ「昔はGUに入るのが怖いって日記に書いてましたよね」

アヤ「うん。だから1から始めようということで、まずルミネに行ってみたんです。店員さんとかに『これからちょっと人前に立つ仕事があるんですけど』とか言って」

まみ「なんでそんな小芝居入れなきゃいけないの(笑)」

アヤ「舐められたらおしまいだと思って。え? 作家? 芸人? もしかして個性派俳優? って興味が沸くように、言葉の端々に含みを持たせました。わざと挙動不審に振る舞ったりして。そしたら、なんか変なの出してくるんですよ」

まみ「そりゃそうでしょう。そんなこと言ったら」

アヤ「だよね。作家か芸人か個性派俳優だもん。うろたえつつ、『ここで負けたらいかん』とか思っちゃって、『買います。あ、領収書ください』『宛名どうしますか?』『講談社で』『あ、作家さんですか』みたいな(笑)」

まみ「講談社で仕事してんのかよ! って(笑)」

アヤ「そんなばっかです。で、最近とうとうルミネすらださいんじゃないかと気づき始めちゃって。真っ先に、"これは高円寺だ"と思ったんですよね」

まみ「新宿ルミネから下り方面の電車に乗ってどうするの(笑)」

アヤ「古着だ、オンリーワンだって思ったの。自意識世代の奇病」

まみ「そこ、難しいエリアですよね」

アヤ「正直今まで、仕入れただけの古着を高く売るという根性が疑問だったんです。つくってもいないのになんでこんなに高く売るんだ、お前はブックオフかって。けど、一歩踏み入れたら、やっぱりかわいいものが多くて。でね、ああいうところの古着って奇抜なものも多いんですよ」

まみ「なんかこう、モモンガみたいな服とかよくあるよね」

アヤ「でも買い物中は、自撮りの中の自分のつもりでいるから、どんな服にも勝てる、似合う、行ける、って思っちゃうんですよ。たとえモモンガでも」

まみ「イメージの中では『私、何でも似合っちゃう』っていうことになってるんだよね」

アヤ「もはや、変なのであればあるほど買いたくなるんだよね」

まみ「挑戦意欲がわいてくる」

アヤ「そうそう、かかってこいや! みたいな」

まみ「この服を着こなせる私! って」

アヤ「そんなこんなで今、ちょうどファッションと自意識について考えてる最中だったので、まみさんの本がより沁みて。むずかしいよね、なにをどう着るか。まみさんは今日は?」

"自分がある人"のコスプレ

まみ「私は気合いを入れて頭をツーブロックにしてきたんですよ。普段はあまりこういう格好じゃなくて、わりとフェミニンな格好をしてるんですけど、自分の好きな服を着たほうがいいなと思って。それで、今まで着てない服に挑戦してみようって考えて服を買って髪を切ってきたんですけど、なんかやってるとこれって"自分がある人"っぽいコスプレかなっていう気がして……」

アヤ「たしかに、なんかCLAMP感ある。レリーズ!」

まみ「あるでしょ? なんかアバンギャルドな服を着てると、自分がある人に見える。もちろん好きで、気に入って買ってるんだけど、やっぱり見られ方を意識してる」

アヤ「『音楽と人』の表紙とかぶっこめそうな気も」

まみ「アヤちゃんがルミネの店員さんに『一般人と思われたら困るんでちょっと服用意してください』って言うのと、私がやってることって変わらないなって思った。ただ、講談社とかウソついてないだけで(笑)」

アヤ「そうかもしんない」

まみ「今日着てる服は、友達の友達のデザイナーの方が作ってる服なんですけど、今シーズンのニットにひらがなで『わたしはいない』って書いてあるのがあったんですよ。私は"私がある人"のコスプレをしているんじゃないか、じゃあ本当の私って何って思った時に、『わたしはいない』っていう言葉を思い出して、『あれだ、あれを買えばよかったんだ』って。

今シーズンのコンセプトがいろいろあって、すごくいい話が書いてあったんですよ。"みんなが自分のことが嫌いで、自分の身体がきらいだから、それは、fashion君が一番大好きな餌です。あなたがあなたのことが、きらい、ということ、その自虐的な部分をどこまで抱きしめられるか、そんなことを考えながら今回は新作を作りました"(『TETSURO KATO』より)」

アヤ「たしかに、服の個性に人格をのっとられちゃってる人っているよね」

まみ「奇抜な格好をすることで威嚇できることもあるし、その場に合う格好をすればなんとなくそういう人っていうことになったり。服で自分を飾るというより、自分の本質をごまかせる」

アヤ「すごい言葉ですね」

まみ「"わたしはいないと彼女は言ってうずくまる、わたしはブスですと彼女は笑う美しい笑顔で、嫌いなままきれいになれる"というコンセプトでつくっていらっしゃる。嫌いなままきれいになれるっていうのはすごく新鮮でした。『嫌いでいいんだ!』って」