経済産業省 資源エネルギー庁は23日、日本近海に眠るガス資源「メタンハイドレート」の掘削調査を始めたと発表した。日本近海に眠る貴重なガス資源、メタンハイドレートを資源として活用することが可能か、判断するための調査だ。

メタンハイドレートへの過剰な期待は、今はもうない。日本が使用する天然ガスの約100年分の埋蔵量が日本近海にあると言われて、一時は大騒ぎになった。資源のない日本がついに資源国になると夢が広がった。

ところが、実際に掘り出して利用するには、大きなコストがかかることがわかった。今の技術では、メタンハイドレートからメタンを取り出すコストが、メタンを利用することで得られる収入を大きく上回る。つまり、商業ベースでの生産は不可能である。商業ベースでの採掘を可能にする技術を開発できるか、今はまだ手探りの状態だ。

メタンハイドレートは、メタンと水が低温・高圧の状態で結晶化した物質のことだ。火をつけると燃えるので、「燃える氷」とも言われる。ここからメタンを取り出せば、天然ガスに代わる資源として使える。ところが、採掘は簡単ではない。

天然ガス田で、ガスを採掘する方法は、簡単である。自噴、すなわち、勝手に中から飛び出してくるガスを回収だけで済む。地下深くに埋蔵される天然ガスは、高圧で貯留層に閉じ込められているので、地上に向けて出て行く通路を作れば、自噴する。海底ガス田でも、低コストでガスを採取できるのは、ガスが自噴することによる。

メタンハイドレートは、自噴しない。したがって、採掘には大きなコストがかかる。海底に存在するメタンハイドレートを掘り出して、地上に引き上げるのは、とてつもなくコストのかかる土木作業となり、現実的ではない。

なんらかの方法で、海底のメタンハイドレートから、メタンだけを取り出して地上に運ぶしかない。温度を上げてメタンを採る方法、圧力を下げてメタンを採る方法などいろいろ考えられているが、どれもコストがかかり過ぎて、今のところ実用化できない。一時は、メタンハイドレートの資源利用はまったく不可能との悲観も広がった。

今は、メタンハイドレートに対して、過大な期待も悲観もない。時間をかけて、資源として利用可能か、地道に調査を続けるしかないということが理解されている。

表層型メタンハイドレート掘削調査予定海域(出典:経済産業省Webサイト)

技術開発によって、採掘不可能と思われた資源が、採掘可能になった例は、枚挙に暇がない。米国内で大量に産出される「シェールガス・シェールオイル」はその例である。

日本近海には、メタンハイドレートだけでなく、世界中で不足するレアメタルなど、貴重な資源が存在することがわかっている。海洋資源開発は、技術的な問題が山積しており、短期的成果を期待することはできないが、地道な技術開発の努力を続けることで、いつか日本に大きな利益をもたらすことになると期待したい。

執筆者プロフィール : 窪田 真之

楽天証券経済研究所 チーフ・ストラテジスト。日本証券アナリスト協会検定会員。米国CFA協会認定アナリスト。著書『超入門! 株式投資力トレーニング』(日本経済新聞出版社)など。1984年、慶應義塾大学経済学部卒業。日本株ファンドマネージャー歴25年。運用するファンドは、ベンチマークである東証株価指数を大幅に上回る運用実績を残し、敏腕ファンドマネージャーとして多くのメディア出演をこなしてきた。2014年2月から現職。長年のファンドマネージャーとしての実績を活かした企業分析やマーケット動向について、「3分でわかる! 今日の投資戦略」を毎営業日配信中。