保育園一揆を覚えているだろうか。保育所に入れなかった子を持つ親が、自治体に集団で異議申し立てをするもので、全国に先駆けて杉並区で起こったのが昨年2月のことだった。
それから1年たった今も、東京都の待機児童問題は依然深刻だ。待機児童数は東京都世田谷区で1,109人(4月1日時点)。昨年の884人よりさらに増加した。前述の杉並区は116人(4月1日時点)で、昨年の285人から減少はしたものの、待機児童ゼロは実現しなかった。
住みたい街ランキングの上位常連である吉祥寺を有する武蔵野市の場合は、待機児童数208人。前年より27人増加している。人気のエリアだけに子育て世代のファミリーも多く、今年3月には約1,200人の署名とともに「認可保育園を増やし、緊急の保育施設の大幅な拡充に関する陳情」が提出された。ここでは、武蔵野市議会議員に聞いた市の待機児童対策について紹介していく。
武蔵野市の取り組みを振り返る
武蔵野市の川名ゆうじ市議会議員。民主生活者ネット所属 |
武蔵野市ではここ数年待機児童数は増加傾向で、100人を超えたのが2011年。市としても無策でいたわけではなく、川名ゆうじ市議によると「平成16年の公立保育園改革計画策定により公立保育所定員の弾力化は行っていた」とのことだ。弾力化で約 1割程度の入所者数増となり、さらには認可保育所も約25年ぶりに新設した。その後、20年から22年にかけて、5つの認可・認証を開所。22年には、緊急待機児童対策として市内のマンションや施設を利用した小規模保育施設「グループ保育室」を開所した。それでも待機児童は増え続け、翌23年には100人を超えた。
「グループ保育室は既存の建物を使うため低予算で、決定から開所まで3、4カ月と短期間のため、24年には3施設、25年にも1施設を開所しました」と川名市議。しかし、グループ保育室は定員10名程度のため、増え続ける待機児童を吸収するにはあまりに数が少ない。一方認可保育所は23年、24年と開所されていなかったが、ようやく25年に新設、さらに幼保連携の認定こども園も開所した。
市としては近年、それなりの手を打ってきてはいるのだが、他の自治体同様、定員を増やしてもそれ以上に希望者が増え、今年4月1日現在の待機児童数は208人となった。
「認可保育園の定員を300人増やすために、予算は施設建設費以外にも毎年約5億円増となる。また一定の保育レベルも確保する必要があるため、とにかく保育所を増やすというわけには行かない」と川名市議。また、「武蔵野市では25年度中に認証3施設の開所を目指していたが、来年4月から始まる『子ども・子育て支援新制度』の関係で企業側の動きが鈍く、2施設の開所が26年5月以降にずれ込んだ」と続け、子育て世帯を応援するはずの新制度が、現在に限定すると逆に企業参入の障壁となっている。
入所選考にも矛盾
武蔵野市の山本ひとみ市議会議員。市民の党所属 |
川名市議と同じく武蔵野市議会議員の山本ひとみ市議は、保育料についても指摘する。「認可と認可外では保育料に差があって、認可外が高額となる。認可を希望しても入所できずに認可外となるケースが多く、格差是正が必要と考える」としている。
ご存じの方も多いと思うが、認可保育所の選考は多くの自治体がポイント制を採用している。一般的にひとり親がフルタイム勤務より両親ともにフルタイム勤務のほうがポイントが高く、選考に有利となる。武蔵野市の場合も、加えて勤務時間の長さもポイント増に関係しているのだが、この制度自体を問題視するのが川名市議だ。
「現状、武蔵野市の認可選考には正規雇用の保護者が有利となる。しかし、正規雇用を希望してもパートやアルバイトを含む非正規雇用の人もおり、一般的に正規雇用より収入が低いとされる非正規雇用者が認可選考に落ち、保育料が認可より高額の認可外施設に子どもを預けるケースが増えている」(ただし、武蔵野市ではひとり親の場合調整指数が入る)。
確かに厚生労働省発表の『「非正規雇用」の現状と課題』によると、「正社員として働く機会がなく、非正規雇用で働いているもの(不本意非正規)の割合も20%程度存在している」としている。不本意非正規を世代別に見ると、25歳~34歳で30.3%ともっとも多い。これは子育て世代とも言える層だ。
武蔵野市の場合、認可保育所の入所選考基準に週日数・時間の項目があり、「週5日または月20日以上の就労」で「日中7時間45分以上の就労を常態とする」の場合で基準指数が100となる。これより時間が短くなると指数は減っていき、選考に不利となる。
一方で、「両親共にフルタイムでも選考に落ちた」という声もあり、様々な問題をはらんでいる待機児童問題。政府は待機児童解消のために策を打ち始めているが、潜在的待機児童も解消できるかどうかは疑問である。
親の立場としては、「希望する時期に希望する保育所に入れられるようにしてほしい」というのが理想だろう。今回は武蔵野市のケースを紹介したが、全国でも待機児童問題が1日も早く解消されることを願う。