ほかのロボット用OSとも連携可能な「V-Sido OS」

ちなみに、V-Sido OSがOSをうたうようになった以上、ほかのロボット用OSと競合しそうなイメージだが、その心配はないとする。一般的なOSのイメージをヒトの脳・神経系に例えたとしたら、V-Sido OSは前述したように脳の中でも運動を司る「小脳」の役割に近いということで、ほかのOSと連携させて使うといったことも可能だからだ。なお、吉崎氏いわく「コンセプト的にかぶるOSは世界的に見てもないと思います」としている。

ほかのOSの話が出たので、そのほかのロボット用OSも取り上げてみよう。世界的に最もシェアを獲得しているといわれるのが、米Willow Garageが中心となって開発している、2007年に公開されLinux系オープンソースの「ROS(Robot Operating System)」だ。厳密には、ROSはOSだけでなく、OSと、ロボット・アプリケーションの作成支援用のライブラリ、開発用ツール群を含むたロボット開発用ソフト一式のことをいう(ハードウェア抽象化、デバイスドライバ、ライブラリ、視覚化ツール、メッセージ通信、パッケージ管理などが提供されている)。なお、国内でもROSを利用し、オープンであることを強調する、例えば、川田工業のFA用の双腕ロボット「NEXTAGE」(画像17)のROS対応版「NEXTAGE OPEN」なども登場するようになってきた。

画像17。川田工業のNEXTAGE OPEN

また、国内では比較的シェアが大きいとされるのが、産総研の前身組織の1つである電子技術総合研究所が1998年から開発をスタートさせた(2013年3月で産総研による開発・保守は終了)、こちらもオープンソースの「ART-Linux」だ。同OSは、「HRP-2 PROMET」(画像18)や未夢などのHRPシリーズのほか国内の多くのロボットに搭載されている。その特徴は、ほかのリアルタイムOSとは異なり、リアルタイム拡張がユーザー空間で実現されているために既存のデバイスドライバを無修正で使える点だ。

なお、同OSは2008年10月からは科学技術振興機構 戦略的創造研究推進事業(CREST)「実用化を目指した組込みシステム用ディペンダブル・オペレーティングシステム」の中の「実時間並列ディペンダブルOSとその分散ネットワークの研究」で、産総研での後を受ける形で開発が進められたが(ただし研究の責任者は、ART-Linuxの生みの親の1人である、産総研 デジタルヒューマン工学研究センター 副センター長の加賀美聡氏なので、実質的に産総研の研究が継続した形)、こちらも2014年3月で終了している。ちなみにLinux系をベースにしたOSが好まれる理由としては、オープンソースなのですべてを利用者が自らの目でチェックできる点、フリーである点、軽さなどだという。

画像18。産総研/川田工業の名機・HRP-2。2003年3月発表の機体だが、現在も現役として稼働中

さらにLinux系としては、富士ソフトの「PALRO」(画像19)などが採用している、Linuxのディストリビューションの1つである「Ubuntu」もある。実は、ROSをインストールするのに唯一適したディストリビューションがUbuntuとされていることから、ROSとUbuntuはニアリーイコールな感じなのだが、PALROのように、ロボットの中にはROSとは表記せず、OSにUbuntuとしているロボットも見受けられるので別扱いとした。

画像19。福祉用途に使われている、小型ロボットPALRO

このほか、Pepperのほか、ベストセラーのヒューマノイドロボット「NAO」(画像20)、開発中の「Romeo」(画像21)など、アルデバラン・ロボティクス製ロボットに採用されているのが、同社製のOS「NAOqi(ナオキ)」だ。同社がソフトバンクに子会社化される以前はフランスの半公的な企業だった時代に、V-Sido OSとはまったく別個に開発された独自OSである。

NAOqiは、自然な相互作用と感情を基本にしたOSとされ、誰もがマシンと相互的に交流できるアクセス性の高い新手法を提供するという。Pepperの特徴の1つとして「ヒトの感情を認識すること」があるが、ほかの誰かに話しかけるようにしてPepperに話しかけられるのもNAOqiによるところが大きい。ただし、PepperにもV-Sido OSの技術がわずかだがすでに反映されているのは前述した通り。

画像20(左):世界で最も販売台数の多いヒューマノイドロボットのNAO。画像は、現在は販売されていない2010年当時のカラーリングのもの。画像21(右):NAOの兄貴分という位置付けで、身長140cmの福祉用途・研究用途のヒューマノイドロボットとして開発中。(画像は公式Webサイトから抜粋)

ロボットでの利用をあらかじめ想定して開発されている専用もしくは専用に近いOS以外としては、「Windows XP Embedded」などのWindows系も使われているケースが多いとされ、実際、ヴイストンの「Robovie-R3」(画像22)などはメインCPUがWindows搭載ノートPCそのものという具合だ。そのほか、NECの「PaPeRo」(最新型の「PaPeRo petit」ではない)も、バージョンにより異なるが、Windows XPが使われていたものもある(画像23)。

Windows系はあくまでもマイクロソフトの製品なのでブラックボックス化されているので、何かトラブルが生じた時にユーザーが自分の手では解明できないというデメリットはあるのだが、その一方で利用するに当たって敷居が低いというそれを補えるメリットがあり、それゆえに利用されることが多いという。

画像22(左):研究用途の「Robovie-R」シリーズのバージョン3に当たるRobovie-R3。ヴイストンが市販するロボットの中では別格の高額機種で、税抜き価格で380万円。画像23(右):PaPeRoは年々進化しており、これは2010年当時に活躍していたバージョン。このバージョンにはWindows XPが使われていた。秋葉原のNECのショップに2台のPaPeRoがそろった時のもので、タイミングが合うとPaPeRo同士で会話するのがかわいかった

同じくロボット専用OSというわけではないが、高い安全性が求められる航空・宇宙・軍事系のOSとして使われている、米WindRiverが開発・販売している組込用途のリアルタイムOS「VxWorks」は、NASAが「ソジャーナ」こと「マーズ・パスファインダー」(1997年:画像24)に始まる火星探査車に使用されている。1987年に初リリースされ、非常に長い歴史を持ち、2004年の「スピリット」と「オポチュニティ」の「マーズ・エクスプロレーション・ローバー」(画像25)、そして現在活動中の「キュリオシティ」こと「マーズ・サイエンス・ラボラトリー」(画像26)でも採用されている。

画像24(左):マーズ・パスファインダー。画像25(中):マーズ・エクスプロレーション・ローバー。画像26(右):マーズ・サイエンス・ラボラトリー。火星で孤軍奮闘している(してきた)のを思うと、涙ぐましくなる火星探査車たちにはVxWorksが採用されている。 ((C) NASA)

同じくロボット専用OSではないが、早稲田大学の高西淳夫教授の研究室で開発されている、ヒトと同等の身長のヒューマノイドロボットにおいて、世界で初めてヒザ関節伸展歩行を行ったと思われる「WABIAN-2R(WAseda BIpedal humANoid No.2 Refined)」(身長150cm:画像27)で採用されているのが、近年のロボット化が進んでいる自動車などに使われている堅牢さとフル機能を特徴としたリアルタイムOS「QNX」だ。

なおホビーロボットを含む比較的高機能なCPUなどを利用していないロボットは、直接CPUにプログラムを書き込むことから、OSは利用されていないことが多い。

画像27。WABIAN-2R。腰に2軸があり、ヒザ関節伸展歩行が可能