ロボットを手軽に制御することを目指して
少々前置きが長くなってしまったが、そこで登場するのが、アスラテック 事業企画本部 技術開発G チーフロボットクリエイターの吉崎航氏が、産総研の研究者時代に、情報処理推進機構による2009年度上期未踏本体の採択プロジェクトの1つとされ、それを受けて個人で開発し(テーマ名は「人型ロボットのための演技指導ソフト」)、2011年から公開を開始したソフト「V-Sido OS」というわけだ。個人用は、現在もV-Sido公式サイトから無料でダウンロードが可能である。またV-Sido OSは、水道橋重工が開発した4m大の搭乗型ロボット「クラタス」の操作用ソフトとして採用されていることでも知られている。
吉崎氏がV-Sidoを開発したきっかけは、前述したロボットを制御することの難しさにある。それを取り払うことで、ホビーロボットはもちろんのこと、ロボットを用いた研究や、ロボット開発そのものも進展するのではないだろうかと考えたのだ。しかし吉崎氏は、「個人で広めようとすることの限界」を何度も目の当たりにさせられてきたという。V-Sidoの可能性や優秀さは吉崎氏の名と共に、公開されるとすぐさまロボット業界では知れ渡ったのだが、個人対企業となると、なかなかうまく行かず、ビジネスをする難しさを感じたとする。よくある話だが、「個人とは取り引きができない」といった規定がある企業も多く、仮に現場のスタッフはV-Sidoを使いたかったとしても、叶わないことが多々あったというわけだ。
さらに、優秀な技術を持っていて、V-Sidoと組み合わせれば、素晴らしいロボットを開発できそうな可能性があるにも関わらず、資本がないためにロボット開発そのものができない、といった姿も見てきたという。そうした体験が吉崎氏の中で企業化を考えさせるように至り、そこで出会ったのが、ソフトバンクグループでアスラテック 取締役 事業企画本部長の酒谷正人氏だったのである(画像5)。
ちょうどその時、酒谷氏も、2010年にソフトバンクグループ全社3000人の社員が参加した「30年後のソフトバンクが取り扱っている事業」というグループ内コンテストにおいて、酒谷氏が率いるもう1つの企業の社員が「ロボット事業」を題材に優勝したことから、グループで初めてロボットを扱うこととなり、何をどうすればいいか悩んでいたという。何人もの人と会っては話を聞いていく中で、出会った1人が吉崎氏だったのである。
酒谷氏は、吉崎氏の日本の技術で世界のロボット開発に寄与していきたい、将来は日本の産業を支えていきたい、さらに、将来のたくさんの子どもたちが夢を持って「ロボットの勉強をしたい」と思ってもらえるようにしたいという理念や夢に打たれ、具体的に何をやれるのかはわかっていなかったそうだが、「一緒にロボットで何かやっていこう」となったとした。こうして実質この2人によって、現在のアスラテックがスタートしたというわけだ(アスラテックは母体となった前身の企業があり、そこが社名を変え、さらにソフトバンクからの大幅な増資を受けて現在に至る)。
そうした流れの中で、ソフトバンクの仏アルデバラン・ロボティクスの子会社化がなされ(2012年3月)、そして「Pepper」(画像6)の発表が6月5日に行われ、さらに1週間も空けずして、今回の「アスラテックによるV-Sido OSによるロボット・ソフトウェア事業への本格参入」となったのである。