ショッピングやグルメと、様々な店が集まる香港の人気エリア・コーズウェイベイの喧噪からちょっと外れた、静かなファッションウォークエリアにこつ然と現れる「冰室(氷室)」の文字。ここが今、地元の人にも"どこか懐かしい喫茶店"と評判だという。
「冰室」とは香港で60年代にあった喫茶店の意味で、喫茶&軽食を兼ねた現代の食堂"茶餐廰(チャーチャーンテーン)"の原型である。氷室というとかき氷をイメージするが、洋風の軽食や冷たい喫茶メニューなど、香港が豊かになるにつれて高級レストラン以外でも食べられるようになったメニューを出していたため、"冰(氷)"の文字がついたという。
レトロ"風"ではなく"本物"へのこだわり
そんな店の名はMatch Box Cafe「喜喜冰室」。中に入ると、一瞬にして60年代の世界に引き込まれる。入り口には黒電話や瓶詰めのお菓子、照明は現代では生産していない当時の人気ブランド「紅A」のランプを香港全土から取り寄せたものだ。さらにスタッフのユニフォームも、当時の喫茶店で着用していた開襟シャツにチェックパンツをオリジナルで製作、と隅から隅まで完璧なまでに当時を再現している。
そもそも「子どもの頃に行った喫茶店をそのまま作りたかった」というのが、今では複数の飲食店を経営する社長の夢だったという。レトロ風だったり、似ているものを集めている店はあるものの、ここまでオリジナルや本物にこだわって収集しているのは珍しいそうだ。
日本の駄菓子屋にも売っていたようなレトロなおもちゃについても、現存するものを取り寄せるなど、社長の本気度は半端ない。これらは非売品ながら、子ども連れのお客さんなどには当時の遊びを体験してもらえたらと、希望されたらプレゼントすることもあるそうだ。
見た目や食感、調理法も再現! でも味は現代風
こだわりは内装だけにとどまらない。人気のセットメニュー「懐古茶食」(44香港ドル=約580円)は、とろけるようなハムとねぎの卵とじに、赤味のチャーシューがのったスープスパゲティ。そして、トーストはチーズを塗って焼いているという。卵の半熟さは昔と違ってふわふわ仕上げ、スパゲティもゆですぎず(アルデンテとはいかないが)、味はきちんと現代風。当時を知らない若者にも人気なのがうなづける。
香港の昔ながらの味に挑戦したければ、とりもも揚げ(サラダ付き)の「港式炸鶏脾沙律」(52香港ドル=約690円)もおすすめ。味付けして乾かした後、油で揚げるという当時の調理法を踏襲。皮が薄くてパリパリしていて、子どもが大好きなメニューだそうだ。
日本でもありそうなあずきミルク「紅豆削氷」(28香港ドル=約370円)は、大きくてやわらかいあずきとエバミルク(無糖練乳)のコラボレーション。ほんのり甘めで、飲みやすい。クリームソーダに牛乳を混ぜてしまった「忌廉溝牛○」(○は「女乃」、44香港ドル=約580円)など、飲み物メニューも豊富。エバミルク関連ドリンクは日本ではなかなかお目見えしないので、香港に来た際にはぜひお試しあれ!
※1香港ドル=13.2円で換算。記事中の価格・情報は2014年6月取材時のもの